デザインで地域の魅力を発信していく。「農業」の生産者と消費者をつなぐ地域のデザイナー
- 公開:2016.3.23
- ライフスタイル
北海道の中でも農業・農村地帯として、豆類・てん菜・小麦・馬鈴しょの道内生産量のうち約40%を占める十勝。そんな日本の食料生産を担う地域には、デザインの力で農業に光を与えるデザイナーの存在があります。生産者と消費者をつなぐデザインとは?地域のデザイナーという立場で生産者と向き合うデザイナーをご紹介します。
地域の魅力を発信していくためのデザイン力
「菊池さん、こんな事できる? いつもそんな些細なところからデザイナーとして生産者と関わっています(笑)」。そう話すのは、NPO法人コミュニティシンクタンクあうるず「HIYOKO DESIGN」デザイナーの菊池尚美さん。今から8年前、十勝という農業地帯で地域と向上していくことを目的に若手デザイナーを育成する「ひよこデザインプロジェクト」でデザイナーとしての活動をスタートしました。
ひよこデザインプロジェクトは「十勝のものはクオリティが高いけれども、地元でも目を向けていない、いいものでも売れず埋もれてしまっている」。そのようなものをデザインで魅力を引き出し、付加価値を生み出すことをテーマに、様々な取り組みをおこなっています。
ひよこデザインプロジェクトは「十勝のものはクオリティが高いけれども、地元でも目を向けていない、いいものでも売れず埋もれてしまっている」。そのようなものをデザインで魅力を引き出し、付加価値を生み出すことをテーマに、様々な取り組みをおこなっています。
きっと、もっと、素敵になる
農山漁村の活性化のため、地域の1次産業+2次産業+3次産業=6次産業という経営の多角化の考えが広がったのは1990年代半ばのこと。農業王国の十勝でも生産者自ら農作物を加工して商品化する農家さんが少しずつ増えてきました。菊池さんがデザイナーとして活動を始めた頃はといえば「十勝管内にある商品のデザインはもっと良くなると思うものがたくさんありました。若手のデザイナーもまだまだ少なかったと思います。私たちもひよこデザインプロジェクトで、武蔵野美術大学基礎デザイン学科の宮島慎吾教授やNAC商品開発研究所 代表取締役の中田晢夫氏を講師に、主にマーケティングやターゲットの設定方法、商品を作るにあたって基礎となる考え方など地域デザインについて学ぶセミナーを開催し、お仕事以外でもスキルと経験を積んでいました」と菊池さんは振り返ります。そこで学んだ考え方は、菊池さんにとって今でも大切なデザインを組み立てる上での基礎になっているといいます。
今では一人前に成長したひよこデザイナー
「ひよこ」という名前にもあるように「一人前のデザイナーではなかったですから(笑)。そういう意味では制作料もお手頃で、気軽に相談していただけたのだと思います。デザインの持つ力を試していただくにはちょうど良かったのではないでしょうか」と菊池さん。もともとデザインを学びながら農家さんをはじめ「農業」と関わっていたため、農家さんにとってはデザインというものに敷居を感じることなく、気軽に話ができること。そもそもデザインって何か? またデザインすることの必要性を知ってもらうきっかけとして、お互いが良い関係にあったようです。生産者から仕事の依頼があると、まずは必ずと言って良いほど農家さんの畑に行くのだそう。畑での立ち話から打合せになることも。仕事で生産者と向き合っているデザイナーとして、実際に作っている現場に足を運ぶことで肌で感じることは多く、十勝だから考えられるクリエイティビティがあるといいます。今では生産者から“とりあえず、菊池さんに聞いてみよう”といった信頼関係を築いています。
「生産者の方と一緒にデザインを考えることで思い入れも強くなり、さらに商品を手に取った消費者から期待以上の評価があると、生産者のモチベーションのアップにも繋がります。デザインした箱やラベルを、生産者の方が嬉しそうに使ってくださっているのを見た時は、少しは役に立てているのかなと(笑)。“作ってもらったマークをこれにも使いたい!”“新しくこういうのを作ってみたい!”など、次の展開を生産者の方から相談いただく時は嬉しいですし、楽しいですね」と菊池さん。そうやって、菊池さんのデザインは生産者と消費者をつなぐ役目を担い、生産者の方もデザインの力というものを実感しているようです。
「生産者の方と一緒にデザインを考えることで思い入れも強くなり、さらに商品を手に取った消費者から期待以上の評価があると、生産者のモチベーションのアップにも繋がります。デザインした箱やラベルを、生産者の方が嬉しそうに使ってくださっているのを見た時は、少しは役に立てているのかなと(笑)。“作ってもらったマークをこれにも使いたい!”“新しくこういうのを作ってみたい!”など、次の展開を生産者の方から相談いただく時は嬉しいですし、楽しいですね」と菊池さん。そうやって、菊池さんのデザインは生産者と消費者をつなぐ役目を担い、生産者の方もデザインの力というものを実感しているようです。
地域デザイナーとして生産者と消費者の架け橋に
デザインの活動は商品開発にとどまらず、自ら生産者と消費者の間に立ちイベントの立ち上げにも関わっています。2016年で6回目を迎える「麦感祭」は小麦の生産量日本一の音更町で収穫に感謝しお祝いするもの。生産者の「こういうのあったらいいよね」というひと言からスタートしたのだとか。菊池さんはこのイベントの実行委員会の事務局としてポスターからチラシ、チケット、リーフレット、Tシャツまでトータルデザインし、生産者と消費者の架け橋となっています。イベント当日は小麦のメニューも振る舞っているのだそう。
一つのことから、できることが広がっていく
これまで多くの生産者との関わり、商品開発からイベント運営まで多岐にわたって活動する菊池さん。とはいえ、デザイナーである前にどこにでもいる至ってごく普通の20代の女性。アイデアが煮詰まったり、なかなか仕事がうまくはかどらない時もあり、そんな時には気分転換にイラストを描いているのだそう。「イラストはその時の気持ちや見ているもので描いてます。嬉しい気持ち、悩んだ気持ち…色々影響していますね(笑)」と菊池さん。そんなライフワークとして描いてきたイラストがいつの間にか生産者の目に留まり、次第にイラストのお仕事も増えてきているといいます。どんな時であってもデザインと向き合っていることに変わりはないようです。一つまた一つとデザインの力で十勝の農業や地域の魅力を引き出し、付加価値を生み出している地域デザイナーの菊池さん。そんな日々生まれる菊池さんの新しいデザインが今日もまた地域の力、農業の力になっています。
photo / 渡邊 孝明