40年という事物の表層に触れる。『石内 都 肌理(きめ)と写真』
- 公開:2018.1.10
- アート・カルチャー
2014年に「写真界のノーベル賞」と謳われるハッセルブラッド国際写真賞をアジア人女性として初めて受賞するなど、国際的に最も高く評価される写真家・石内都の展覧会『石内 都 肌理(きめ)と写真』が横浜美術館で開催されています。石内作品を通して、存在と不在、人間の記憶と時間の痕跡を捉えた本展覧会をご紹介します。
時間と記憶をこめた写真作品
日本だけでなく、世界的に高く評価されている写真家・石内都さん。近年では、広島平和記念資料館に寄贈されたワンピース、制服、メガネなど、被爆者の遺品を被写体とする「ひろしま」や、メキシコの画家フリーダ・カーロの遺品を撮影した作品などで、その活動は国際的に評価され、注目を集めています。
2017年は、写真家としてのデビュー40年という節目の年にあたります。現在開催中の『石内 都 肌理(きめ)と写真』では、自ら「肌理(きめ)」という言葉を掲げて、初期から未発表作品にいたる約240点を展示しています。
2017年は、写真家としてのデビュー40年という節目の年にあたります。現在開催中の『石内 都 肌理(きめ)と写真』では、自ら「肌理(きめ)」という言葉を掲げて、初期から未発表作品にいたる約240点を展示しています。
横浜という被写体を捉える
1975年、石内さんは横浜の自宅に暗室を構え、写真家として活動をはじめました。以来、デビュー作である「絶唱、横須賀ストーリー」から「Mother's」に至るモノクローム作品のほぼ全てが、横浜の暗室で制作されたそうです。横浜という地は、石内さんにとっての貴重な被写体でもあり続けました。
会場には「Apartment」、「連夜の街」、「yokohama 互楽荘」、「Bayside Courts」など、今となっては失われてしまった風景や建物が展示されており、石内さん自身が撮影する行為を通して、自分の記憶に、住人たちの想いを刻み込んでいるような印象を受けました。
また、横浜美術館コレクション展内の写真展示室では「絶唱、横須賀ストーリー」のヴィンテージブランドが展示されているので、ぜひそちらにも足を伸ばしてみて下さい。その写真作品を鑑賞してこそ、石内さんが歩みが理解できると思います。
会場には「Apartment」、「連夜の街」、「yokohama 互楽荘」、「Bayside Courts」など、今となっては失われてしまった風景や建物が展示されており、石内さん自身が撮影する行為を通して、自分の記憶に、住人たちの想いを刻み込んでいるような印象を受けました。
また、横浜美術館コレクション展内の写真展示室では「絶唱、横須賀ストーリー」のヴィンテージブランドが展示されているので、ぜひそちらにも足を伸ばしてみて下さい。その写真作品を鑑賞してこそ、石内さんが歩みが理解できると思います。
女性という“生き方”にフォーカス
2011年、被爆した女性たちが遺した絹の衣服を撮影したことを機に、石内さんの生まれ故郷でもあり、絹織物の産地である群馬県桐生市に残された、絹織物・銘仙を撮影しました。銘仙は、ヨーロッパの新鋭美術の動向を取り入れた斬新なデザインと鮮やかな色彩が特徴で、日本の近代化を支えた大正・昭和の女性が普段着として愛用していた着物です。
また今年撮影した、アメリカのファッションデザイナーであるリック・オウエンスの亡き父が、日本で入手した着物や、戦前より伝わる阿波人形浄瑠璃の衣裳も、 “絹” のものがありました。石内さんは絹の歴史を紐解き続けています。会場では目を奪われる色彩豊かな着物の写真作品だけでなく、絹糸の源となる蚕がうごめく映像作品も上映されています。
そして、1990年代から2000年代に渡り継続している傷跡を捉えたシリーズも展示しています。このシリーズの制作は、石内さん自身が生きることへの根源的な意味を問い直す作業だったそうです。女性の傷跡だけを集めた「Innocence」は、同情を誘うようなものでも、目を背けたくなるものでもなく、“生きた証”としての美しさがありました。まるでからだに傷跡がある女性たちの悲しみや苦しみを分かち合ったような作品です。
また今年撮影した、アメリカのファッションデザイナーであるリック・オウエンスの亡き父が、日本で入手した着物や、戦前より伝わる阿波人形浄瑠璃の衣裳も、 “絹” のものがありました。石内さんは絹の歴史を紐解き続けています。会場では目を奪われる色彩豊かな着物の写真作品だけでなく、絹糸の源となる蚕がうごめく映像作品も上映されています。
そして、1990年代から2000年代に渡り継続している傷跡を捉えたシリーズも展示しています。このシリーズの制作は、石内さん自身が生きることへの根源的な意味を問い直す作業だったそうです。女性の傷跡だけを集めた「Innocence」は、同情を誘うようなものでも、目を背けたくなるものでもなく、“生きた証”としての美しさがありました。まるでからだに傷跡がある女性たちの悲しみや苦しみを分かち合ったような作品です。
存在しつづける遺品たち
母の死と向き合うために撮影された「Mother's」は、石内さんが遺品を撮るキッカケとなった作品です。その作品を通して、その後の写真の方向性を決定づけたと言われています。
1つ目のブロックでも紹介した、被爆者の遺品を撮影した「ひろしま」や、女性の痛みや苦しみを主題に作品を描いたフリーダ・カーロの遺品を捉えたシリーズなど。持ち主の身体が消滅した後も残される物を、時間の堆積として被写体を捉え、撮影するあり方を提示しています。
作品に収められている洋服のシワやシミ、装飾が剥げ落ちた指輪や、微かにヒビが入っている櫛…その全ての持ち物には当事者がいたことの証であり、生命の痕跡からどんな人物だったのかを想像してしまいます。
そして、それは鑑賞者である私たちに当事者を連想させることで、その記憶が忘れ去られないようにしているかのようにも思えました。
1つ目のブロックでも紹介した、被爆者の遺品を撮影した「ひろしま」や、女性の痛みや苦しみを主題に作品を描いたフリーダ・カーロの遺品を捉えたシリーズなど。持ち主の身体が消滅した後も残される物を、時間の堆積として被写体を捉え、撮影するあり方を提示しています。
作品に収められている洋服のシワやシミ、装飾が剥げ落ちた指輪や、微かにヒビが入っている櫛…その全ての持ち物には当事者がいたことの証であり、生命の痕跡からどんな人物だったのかを想像してしまいます。
そして、それは鑑賞者である私たちに当事者を連想させることで、その記憶が忘れ去られないようにしているかのようにも思えました。
優しさの眼差し
会場を巡りながら写真作品を鑑賞していると、風景、人物、遺品…それぞれテーマは違うはずなのに、どの被写体に対しても慈悲の眼差しで捉えられているように感じました。石内都さんはそんな被写体自身でさえも気付いていないような、微かな痛みや傷にさえも敏感に感じ取り、そっと優しく寄添うことのできる人物なのだと思います。そんな視点を持ってして様々な物事を見れるようになれたら、きっと視野が広がって既存とは違う見方ができ、日々の暮らしで本当の意味での優しさに気づけることでしょう。
また、会期中は学芸員によるギャラリートーク、夜のアートクルーズが開催されます。その他にも、石内都さんが銘仙を撮影していることから、着物の来場者には割引が適用されたりと、面白い試みがされているのでぜひ足を運んでみてください。
また、会期中は学芸員によるギャラリートーク、夜のアートクルーズが開催されます。その他にも、石内都さんが銘仙を撮影していることから、着物の来場者には割引が適用されたりと、面白い試みがされているのでぜひ足を運んでみてください。
photo / 作品:©︎Ishiuchi Miyako 撮影:新麻記子
「石内 都 肌理(きめ)と写真」
会期:2017年12月9日(土)~2018年3月4日(日)
会場:横浜美術館
開館時間:10:00~18:00
*2018年3月1日(木)は16:00まで
*2018年3月3日(土)は20:30まで
(入館は閉館の30分前まで)
休館日:木曜日(ただし、2018年3月1日を除く)
年末年始(2017年12月28日(木)-2018年1月4日(木))
http://yokohama.art.museum/special/2017/ishiuchimiyako/index.html