欠けたもの同士が寄り添う小さなアクセサリー
貝の欠片同士を繋ぎ合わせたピアス。お互いの欠けた部分を埋めるように、貝殻たちが寄り添っています。
眺めていると、幼い頃、夢中になって拾った浜辺の貝殻や道端の石ころを思い出します。
こちらのアクセサリーを制作しているのは「雨氣」という作家名で活動している藤田友梨子さん。ピカピカに磨かれた宝石や欠けのない完璧な形の貝ではないのに、なぜか惹かれてしまう。そこには、なにか物語や背景を感じずにはいられません。このアクセサリーたちは、一体どのような思いで生み出されているのでしょうか。
眺めていると、幼い頃、夢中になって拾った浜辺の貝殻や道端の石ころを思い出します。
こちらのアクセサリーを制作しているのは「雨氣」という作家名で活動している藤田友梨子さん。ピカピカに磨かれた宝石や欠けのない完璧な形の貝ではないのに、なぜか惹かれてしまう。そこには、なにか物語や背景を感じずにはいられません。このアクセサリーたちは、一体どのような思いで生み出されているのでしょうか。
見失っていたものを思い出させてくれた海
海の近くで生まれ育った藤田さんは、小さい頃から貝や石を拾うのが大好きだったそう。
しかし、社会人になり会社勤めを始めると、仕事の忙しさや上手くいかないことでの悩みに心が支配され、日常の中にある美しさや自然のささやかな気配に反応できなくなっていきました。
しかし、社会人になり会社勤めを始めると、仕事の忙しさや上手くいかないことでの悩みに心が支配され、日常の中にある美しさや自然のささやかな気配に反応できなくなっていきました。
そんな中で、藤田さんの心の大きな救いとなったのが浜辺で過ごす時間でした。
仕事でうまくいかずに落ち込んだり自分を責めてしまうとき、浜辺に行き、何をするでもなく歩いたりぼんやり座り込んで海を見つめる。そうして気持ちをリセットすることで、自分の心の均衡を保つことができました。
いつものようにそんな浜辺での時間を過ごしていたとき、ふと目に留まったのは砂浜に転がっていた貝の欠片でした。
「形のしっかり残った美しい貝殻は拾ってもらえるけれど、欠けて小さくなった貝の欠片はなかなか気づいてもらえない。それが何だか、色々うまくやっていけない自分にも重なるように感じました」(藤田さん、以下同様)
仕事でうまくいかずに落ち込んだり自分を責めてしまうとき、浜辺に行き、何をするでもなく歩いたりぼんやり座り込んで海を見つめる。そうして気持ちをリセットすることで、自分の心の均衡を保つことができました。
いつものようにそんな浜辺での時間を過ごしていたとき、ふと目に留まったのは砂浜に転がっていた貝の欠片でした。
「形のしっかり残った美しい貝殻は拾ってもらえるけれど、欠けて小さくなった貝の欠片はなかなか気づいてもらえない。それが何だか、色々うまくやっていけない自分にも重なるように感じました」(藤田さん、以下同様)
でも、その欠片も拾い上げてよく見てみると美しい。欠けも摩耗も、その貝が経てきた時間があってこその個性であり、それぞれに素晴らしいと感じたのだそう。
「欠点ばかりの自分にもきっといいところがあって、今までのことが無駄ではないこと、それを教えてもらったような気持ちになりました」
それ以来、貝の欠片は藤田さんの心を支えてくれるお守りのような存在になりました。
「欠点ばかりの自分にもきっといいところがあって、今までのことが無駄ではないこと、それを教えてもらったような気持ちになりました」
それ以来、貝の欠片は藤田さんの心を支えてくれるお守りのような存在になりました。
ささやかな美しさを忘れず、自分らしくいるために
その後、藤田さんは自分を表現する手段として、古紙を使ったコラージュ作品などを制作する作家活動を始めます。
作家名として選んだのは、雨が降りそうな気配のことを指す「雨氣」という言葉。藤田さん自身、雨が降る前の空気の変化やざわざわと心が揺さぶられるような感覚が好きなのだそう。
「作家名として選んだのは、そばにある自然の美しさをいつも忘れず、ゆとりを持ち、自分の心を置いてけぼりにしないための、ある意味では戒めでもあります。そして作品を通してお客さまにも、同じように日常の中にあるささやかな美しさを大切にする心を感じてもらえたらいいなと思っています。」
作家名として選んだのは、雨が降りそうな気配のことを指す「雨氣」という言葉。藤田さん自身、雨が降る前の空気の変化やざわざわと心が揺さぶられるような感覚が好きなのだそう。
「作家名として選んだのは、そばにある自然の美しさをいつも忘れず、ゆとりを持ち、自分の心を置いてけぼりにしないための、ある意味では戒めでもあります。そして作品を通してお客さまにも、同じように日常の中にあるささやかな美しさを大切にする心を感じてもらえたらいいなと思っています。」
東北の海で見つけた小さな欠片
主に紙モノの作家として活動していた藤田さんが、冒頭でご紹介した貝のアクセサリーを制作するようになったのは、東日本大震災の後、東北に引っ越してからです。
引っ越してしばらくはどうしても海を訪れる気持ちにはなれなかったという藤田さん。
「震災の海…自分の心の中で海が大きな存在であるがゆえに、対峙するのがとてもこわかったし、海を嫌いになってしまうのではないか、そんな不安もありました」
しかし、気持ちよく晴れたある日、思い切って海へ向かいます。すると目の前に広がったのは、青くて広くて眩しいほどにキラキラした太平洋。それは言葉にできないほどの美しさでした。
引っ越してしばらくはどうしても海を訪れる気持ちにはなれなかったという藤田さん。
「震災の海…自分の心の中で海が大きな存在であるがゆえに、対峙するのがとてもこわかったし、海を嫌いになってしまうのではないか、そんな不安もありました」
しかし、気持ちよく晴れたある日、思い切って海へ向かいます。すると目の前に広がったのは、青くて広くて眩しいほどにキラキラした太平洋。それは言葉にできないほどの美しさでした。
そのとき浜で拾った欠けた貝殻。欠けた所を何とかしてあげたくなり、家に持ち帰り、見よう見まねで金継ぎを施し、ブローチにしました。
そのことがきっかけで、以降、拾った貝の欠片を使った作品を多く手掛けるようになります。
欠片たちをお守りのように身に着けてもらいたいという思いから、耳飾りやブローチといった装身具として仕立てているそう。
そのことがきっかけで、以降、拾った貝の欠片を使った作品を多く手掛けるようになります。
欠片たちをお守りのように身に着けてもらいたいという思いから、耳飾りやブローチといった装身具として仕立てているそう。
欠けや傷さえも愛おしい
素材となる貝や石のほとんどが、藤田さん自身の手で拾ってきたもの。近隣の浜や、旅先の海や川で拾ってくることも。
拾ってきた素材は、削ったり磨いたりせず、ほぼそのままの形で使用します。
「拾ったそのままの姿を大切にすることで、それぞれが過ごしてきた時間や風景を感じていただきたいと思っています。それに何よりも、せっかく出会った欠片たちを削ることがなんだか可哀想で…。今の姿を肯定してあげたいという気持ちが強いです」
拾ってきた素材は、削ったり磨いたりせず、ほぼそのままの形で使用します。
「拾ったそのままの姿を大切にすることで、それぞれが過ごしてきた時間や風景を感じていただきたいと思っています。それに何よりも、せっかく出会った欠片たちを削ることがなんだか可哀想で…。今の姿を肯定してあげたいという気持ちが強いです」
欠けや傷もあるけど、そこにそれぞれの美しさがある。その欠けたもの同士、手をつなぐように繋ぎ合わせることで、それぞれの過ごしてきた時間が重なり支えあってひとつになる。
そうして出来上がったアクセサリーたちは、ひとつとして同じものがない、唯一無二の特別な存在なのです。
そうして出来上がったアクセサリーたちは、ひとつとして同じものがない、唯一無二の特別な存在なのです。
自分らしさを忘れないお守りとして
雨氣はギャラリーやセレクトショップなどの展示会を中心に活動しています。スケジュール等はInstagram(@uqui___)をチェックしてみてくださいね。
直近では、2020年9月にギャラリー「MARUNI」(東京・神戸)にて、グループ展を開催予定。お近くの方は足を運んでみては。
自分が自分らしく過ごすことや、自分を見つめなおす時間はとても大切ですが、通り過ぎていく日々の中でそのことはつい疎かにしがち。雨氣のアクセサリーは、その大事なことを思い出させてくれる気がします。自分を見失わないお守りのような存在として、身に着けてみてはいかがでしょう。
直近では、2020年9月にギャラリー「MARUNI」(東京・神戸)にて、グループ展を開催予定。お近くの方は足を運んでみては。
自分が自分らしく過ごすことや、自分を見つめなおす時間はとても大切ですが、通り過ぎていく日々の中でそのことはつい疎かにしがち。雨氣のアクセサリーは、その大事なことを思い出させてくれる気がします。自分を見失わないお守りのような存在として、身に着けてみてはいかがでしょう。
photo / 雨氣