猫が教えてくれること「永遠はない」/紙版画作家・坂本さんが出会った猫たちの場合vol.1
- 公開:2018.2.4
- ライフスタイル
猫の猫らしい行動に、自分の生き方を重ねてハッとする瞬間があります。イラストレーターで紙版画作家の坂本千明さんものその一人。亡くした猫、今ともに暮らす猫、そして一時でも関わりをもった猫たちから坂本さんが教わったこととは?連載1回目は、今は亡き猫・楳(うめ)ちゃんから教わった命の話です。
1分1秒だって無駄にできない
保護猫出身の黒猫姉妹・墨(すみ)ちゃん&煤(すす)ちゃんと暮らすのは、イラストレーターであり紙版画作家の坂本千明さんです。坂本さんは、今は亡き、一番初めに一緒に暮らした猫・楳(うめ)ちゃんとの出会いと別れを綴った『退屈をあげる』(青土社)の著者でもあります。私たちが取材で訪れたのは、偶然にも楳ちゃんの5回目の命日でした。
「行き倒れ寸前の野良猫・楳(当時推定1歳)を保護して、念願だった猫との暮らしが始まったのもつかの間、1年後、楳に乳腺腫瘍が見つかって手術することになりました。再発してからは抗ガン剤やサプリ、自然療法など手を尽くしましたが2年半後、余命宣告から3ヵ月ほど長く頑張って、楳は4歳と11ヵ月で亡くなりました。
闘病中、楳と対峙しながら、私は死というものを初めて思い知りました。生きとし生けるもの皆いつかは死ぬ。もちろん頭ではわかってはいましたが、すぐ近くに迫る楳の死を肌に感じてすごく焦りました。楳と過ごす1分1秒だって無駄には出来ないって」
「行き倒れ寸前の野良猫・楳(当時推定1歳)を保護して、念願だった猫との暮らしが始まったのもつかの間、1年後、楳に乳腺腫瘍が見つかって手術することになりました。再発してからは抗ガン剤やサプリ、自然療法など手を尽くしましたが2年半後、余命宣告から3ヵ月ほど長く頑張って、楳は4歳と11ヵ月で亡くなりました。
闘病中、楳と対峙しながら、私は死というものを初めて思い知りました。生きとし生けるもの皆いつかは死ぬ。もちろん頭ではわかってはいましたが、すぐ近くに迫る楳の死を肌に感じてすごく焦りました。楳と過ごす1分1秒だって無駄には出来ないって」
私が関われる猫はあと何匹?
「猫は人の4倍くらいの速さで、その生涯を駆け抜けると言います。スピードこそ違え、人間だって着々と老いていって死ぬわけです。楳の闘病中に実家の母にもガンが見つかり、皆、永遠ではないことを二重に思い知って、当時40代を迎えた私は、とても後悔しました。
マンションがペット不可だからとか、夫が動物に興味がないからとか、運命の猫といつか出会うだろうからとか、いろいろ言い訳を並べて猫と暮らすという、ずっとやってみたかったことを実現しなかった自分にすごく後悔したんです。
私が生涯に責任を持って飼える猫はあと何匹?もっと早く猫との暮らしに踏み切っていたら、一匹でも多く飼い主のいない猫の里親になれたかもしれないのにって。なによりこんなに面白く愛おしい猫との生活が待っていたのに、なんてもったいないことをしてしまったんだろうって」
マンションがペット不可だからとか、夫が動物に興味がないからとか、運命の猫といつか出会うだろうからとか、いろいろ言い訳を並べて猫と暮らすという、ずっとやってみたかったことを実現しなかった自分にすごく後悔したんです。
私が生涯に責任を持って飼える猫はあと何匹?もっと早く猫との暮らしに踏み切っていたら、一匹でも多く飼い主のいない猫の里親になれたかもしれないのにって。なによりこんなに面白く愛おしい猫との生活が待っていたのに、なんてもったいないことをしてしまったんだろうって」
関われる猫もそうでない猫もすべてが尊い
楳との時間も、自分自身の時間も、大事に過ごさなければ。楳ちゃんを保護した頃、坂本さんはそれまで生業としていたイラストに加えて、ずっとやってみたかった版画に挑戦し始めました。それまでは主に人物を描いていたという坂本さんは、初めて猫の作品を作ることに。モデルはもちろん楳ちゃんです。
「ちょうどモノトーンの版画ばかりを作っていた時期で、たまたま楳が白黒ハチワレの猫だったというのと、毎日その姿を目にしていて、ふと描いてみようかなと思って。線一本描くにしても不自由なことが多いんです、版画って。版を作る時はニードルで厚紙をひっかく(ひっかいた部分にインクが入る)ので、普通に鉛筆やペンで紙に描くよりも、抵抗が強いからです。しかも描いたものが反転します。インクの乗り具合、拭き取り方、プレス機の圧力の調整で、毎回仕上がりがどうなるかわからないドキドキする感じにのめり込んでいきました」
著書の『退屈をあげる』はもともと楳ちゃんが亡くなった後に参加したグループ展のために作られた連作版画だったそう。作品を見た方々から「本にして欲しい」とリクエストがあり、坂本さんが詩画集としてまとめました。
「ちょうどモノトーンの版画ばかりを作っていた時期で、たまたま楳が白黒ハチワレの猫だったというのと、毎日その姿を目にしていて、ふと描いてみようかなと思って。線一本描くにしても不自由なことが多いんです、版画って。版を作る時はニードルで厚紙をひっかく(ひっかいた部分にインクが入る)ので、普通に鉛筆やペンで紙に描くよりも、抵抗が強いからです。しかも描いたものが反転します。インクの乗り具合、拭き取り方、プレス機の圧力の調整で、毎回仕上がりがどうなるかわからないドキドキする感じにのめり込んでいきました」
著書の『退屈をあげる』はもともと楳ちゃんが亡くなった後に参加したグループ展のために作られた連作版画だったそう。作品を見た方々から「本にして欲しい」とリクエストがあり、坂本さんが詩画集としてまとめました。
「自分の家の飼い猫の、こんなプライベートな話を本にして、それを販売するということに、申し訳ないような気持ちが強くて随分迷いました。だから最初は自費出版で初版の500部を作ったら、それで終わりにするつもりでいたんです。でも、欲しいと言ってくださる人が絶えず、結果的には4刷まで制作しました。
感想を送ってくださる方もいて、楳をご自身が亡くされた大切な存在に置き換えて読んでくださっていることがわかり、本にしてよかったんだと思えました。そういう意味でも本の制作と販売は貴重な経験でしたが、本業もあり時間に追われるようになってきたところに出版社とのご縁があって。これも楳のお蔭かもしれません。
楳の亡きあと、今は墨と煤と暮らしています。私がいったいあと何匹の猫と関われるのかわかりませんが、毎日が大切で、すべての猫が尊いです」
楳ちゃんが亡くなってすぐに取り掛かった作品『退屈をあげる』は、2017年10月に青土社から出版され、たった3ヵ月で3刷目の重版出来。
坂本さんが楳ちゃんの命に教わった、「やりたいことがあるなら言い訳を並べず、まずはやってみる」ということ。その結果、多くの人の心に寄り添うことができたのです。
さて、次回は、坂本さんが今ともに暮らす墨ちゃんと煤ちゃん姉妹から教わった「ポジティブの正体」です。お楽しみに!
感想を送ってくださる方もいて、楳をご自身が亡くされた大切な存在に置き換えて読んでくださっていることがわかり、本にしてよかったんだと思えました。そういう意味でも本の制作と販売は貴重な経験でしたが、本業もあり時間に追われるようになってきたところに出版社とのご縁があって。これも楳のお蔭かもしれません。
楳の亡きあと、今は墨と煤と暮らしています。私がいったいあと何匹の猫と関われるのかわかりませんが、毎日が大切で、すべての猫が尊いです」
楳ちゃんが亡くなってすぐに取り掛かった作品『退屈をあげる』は、2017年10月に青土社から出版され、たった3ヵ月で3刷目の重版出来。
坂本さんが楳ちゃんの命に教わった、「やりたいことがあるなら言い訳を並べず、まずはやってみる」ということ。その結果、多くの人の心に寄り添うことができたのです。
さて、次回は、坂本さんが今ともに暮らす墨ちゃんと煤ちゃん姉妹から教わった「ポジティブの正体」です。お楽しみに!
photo / 工藤朋子
イラストレーター・紙版画作家/坂本千明