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ポイントを押さえれば美術はもっと楽しめる。館長に聞く「歌川国貞展」の楽しみ方

世田谷区にある静嘉堂文庫美術館で開催中の「歌川国貞展」。一般的には浮世絵師の中で「歌川」というと広重や国芳が有名ですが、今回開催されている「歌川国貞」は江戸時代では最も有名な浮世絵師だったそうです。そんな「国貞」の錦絵作品がより楽しめる鑑賞のコツを企画担当の司書と館長に伺ってみました。

ポイントを押さえれば美術はもっと楽しめる。館長に聞く「歌川国貞展」の楽しみ方

初めに知っておきたい、錦絵の基礎知識

歌川国貞:「思事鏡写絵(蚊帳)」photo:コロコロ

美術初心者でも錦絵鑑賞を楽しむには、どのようなポイントを押さえればよいのでしょうか。現在開催中の「歌川国貞展」を例に、イベント企画担当者である主任司書、成澤麻子さんに、浮世絵の中のジャンルの一つ錦絵の基礎知識や歌川国貞について伺いました。

「浮世絵の中でも『錦のように美しい』と言われた錦絵をご存知でしょうか?錦絵は、何色も色を重ねて摺られた木版画のことです。浮世絵の色は最初、墨だけ、あるいは墨と紅色が主流で多色摺りではありません。より鮮やかな摺物をという要求に応えて生まれた浮世絵の手法の一つです。それらは摺師や彫師の技術に支えられていました。上の絵を近くで見てみると、蚊帳の細かい網目や、髪の毛の一本一本など、版木に小刀で彫ったという事に驚かされます。精巧な技術が使われている事が分かりますね」(成澤さん)。

(写真)思事鏡写絵(蚊帳) 大判錦絵 静嘉堂文庫蔵 前期展示

浮世絵師 歌川国貞とはどんな人だったのでしょうか

歌川国貞:「卯の花月」大判錦絵3枚続photo:静嘉堂文庫提供

「歌川国貞は、10代で初代豊国に弟子入りしました。才能のあった国貞は我こそが二世豊国だと名乗り弟子たちにも認めさせていました。ところがすでに、豊国の娘婿が二世を襲名していたのですから、世間はそんなことを認めません。そこで「歌川」と「疑う」、「二世」と「ニセ」をかけた狂歌ではやしたてられていました。「歌川などと疑わしく名乗り出で二世の豊国ニセの豊国」。今日では、三世豊国で定着しました。

歌川国貞は、江戸時代の庶民の生き生きとした暮らしを描くのが得意な絵師で、女性達を描いた「卯の花月」という作品は、画面に目を凝らすと、中央で初鰹を捌いているのがわかります。これからそのお刺身をみんなで楽しむところなのかな?など想像を膨らませて当時の生活に想いを馳せると、より浮世絵が楽しめますよ」(成澤さん)。

(写真)「卯の花月」大判錦絵3枚続 江戸時代末期(19世紀半ば頃) 静嘉堂文庫蔵 前期展示

作品の上部の円や四角の枠の中にも注目

歌川国貞:「星の霜当世風俗(蚊やき)」/「星の霜当世風俗(外出)」photo:コロコロ

「この絵の上部に小さく描かれた丸い枠の中には画題が書かれていて、ここでは『星の霜当世風俗』のシリーズ物の一枚だということを表しています。また、小さな絵が描かれていることもあり、これをコマ絵と言います。錦絵ではよく使われる技法でここには絵の隠れた意味や、補足の内容が描かれています。丸い鏡の中に描かれた絵が、美人の心の内を表わしていたり、関連する風景が描かれたりと、様々なバリエーションがあります。謎解きの要素も含んでいるので、コマ絵を見ながら、その本題に隠された意味を考えてみるのも楽しいですよ」(成澤さん)。


以上、今回のイベントを企画した成澤麻子さんに浮世絵に関する基礎知識を教えていただきました。その知識をもとに、実際に「歌川国貞展」の楽しみ方を館長に解説していただきました。

(写真右)星の霜当世風俗(蚊やき)大判錦絵 静嘉堂文庫蔵 前期展示
(写真左)星の霜当世風俗(外出) 大判錦絵 静嘉堂文庫蔵 前期展示

人目をひく“色”や“構図”がアイキャッチ 心までつかんだ国貞

歌川国貞:「江戸自慢 四万六千日」photo:コロコロ

こちらの作品、上端にある四角いコマ絵には何が描かれているのでしょうか。また、上部を漂う黒い煙は何を表現しているのでしょうか。

「コマ絵に何が描かれているか、この作品を見ただけでは私にもわかりません。そういう時は、展示の横にある解説やハンドブックを見てください。それらには、作品のタイトルと詳細が記載されています。
こちらの作品タイトル『四万六千日』というのは、旧暦の7月9・10日に行われている浅草寺の縁日のことで、今でいう『ほうずき市』のこと。この日に浅草寺をお参りすれば、46,000回お参りしたことになると書いてあります。専門家の私でも知らないことが、このコマ絵からは読み取れるのです。また、これが浅草寺の絵だとわかれば、鉢からモクモク出ている煙は、本堂の前で焚かれている煙のことを指していると連想できます。
ここでいう煙は、今の蚊取り線香の煙のこと。子どもがお母さんかお姉さんの着物の黒い帯を引っ張っているのは、早く縁日に行きたいと催促しているのかもしれないし、行くのを嫌がって駄々をこねているのかもしれない。分かった状況から自由に想像を膨らませて楽しめばいいのです。

また、この構図も注目してほしいですね。国貞は構図を考えることを得意としていた絵師です。なので、煙をオーバーに描いて、帯の黒と平行に配置することで、全体の構図をまとまりがあるように工夫したのだと思うんです。そうしたら、グッと目をひくでしょう?」(河野館長)。

なるほど、事前に知識が無くても、まずは絵の全体とコマ絵を見て想像する。それでも分からなければ解説を読んで、そこからまた考えてみると、新たな気づきにつながるかもしれないという事ですね。静嘉堂文庫美術館には携帯に便利なハンドブック(350円)が用意されているので、それを片手に、作品の細かな描写などを読み解いていくのもおすすめです。

この作品を遠くから見た時、まず、黒い煙と帯が浮き立って目につきました。錦絵は今の時代でいうと、街頭ポスターや週刊誌のような役割も担っていたと言います。煙のもくもくと黒い帯はアイキャッチの役割だったのかもしれませんね。

(写真)「江戸自慢 四万六千日」 大判錦絵 文政初期(1820年前後) 静嘉堂文庫蔵 前期展示

浮世絵が映し出す、現代でも有名なあの役者のブロマイド

歌川国貞:「仁木弾正左衛門直則 五代目松本幸四郎 秋野亭錦升 後 錦紅」photo:コロコロ

続いてはこちらの作品。日本人にしてはやや鼻が高いように感じます。また、よく見ると着物の襟に細かな模様があります。これはどのようにして描かれたのでしょうか。

「これは今回の一番の目玉。描かれているのは、鼻高幸四郎と言われた五代目松本幸四郎です。浮世絵はこの時代のブロマイドのようなものだったので、特徴をより際立たせるように描いていたと考えられています。だから、鼻もすっと伸びて格好いいでしょう?襟の模様は、押し型で圧をかけて凹凸で表現したと解説本には書いてあります。でも、私はどう見ても、押し型で凹凸をつけているだけでなく、色もついていると思うんです。実際に光をあてて、本当は色がついているのか、色がついているように見えているだけなのかは、確認してみないとわからないですけれど。解説に書いてあることも、自分はそうは見えない。じゃあどうなっているのか?っていうのを、自分なりに考えてみるのも面白いですよ。髪の毛だって、ベタっと塗られているのではなく、細かく描かれているんです。ぜひ、光の角度を変えてよく見てみてください。光の当たる方向が変わると、今まで見えなかった細い髪の毛の線が、浮き上がって見えてくる場所がありますよ」(河野館長)。

現代ではちょうど、市川染五郎が十代目幸四郎を襲名しました。このブロマイドから、似ているところがないかと探すのも面白いですね。

(写真)「仁木弾正左衛門直則 五代目松本幸四郎 秋野亭錦升 後 錦紅」大判錦絵 文久3年(1863) 静嘉堂文庫蔵 前期展示 後期は複製展示

浮いたように見える歌舞伎の舞台と、観客の表情や行動にも注目

歌川国貞:「芝居町 新吉原 風俗絵鑑(車引)」photo:コロコロ

こちらの作品は、歌舞伎と、それを観に来ている人が描かれています。ずいぶん細かく描かれていますが、木版画でこんなに沢山の人を彫る事ができたのでしょうか。近くで見てみると、描かれている人々の表情も驚くほど豊かです。
また、この歌舞伎の桟敷席のマスの描き方は、放射状に中央に向かっており、遠近法を使っているように見えます。そもそも、遠近法は明治時代に西洋から入ってきた表現なのではないでしょうか?

「良く気づきましたね。錦絵は木版画が基本ですが、実は筆で描いた肉筆画もあるんです。だからこそ、こんなに細かく描くことが可能だったんです。

また、国貞の師匠・歌川豊春は、西洋の遠近法を取り入れ、浮いてみえる絵「浮絵」という技法を一般化した人です。この技法は建物の内部、歌舞伎の舞台を描く時に多く使われました。その系統を汲む国貞は、得意だった人物画と浮絵の構図を合わせて、迫力のある歌舞伎の風景を描いているのです。

最後にもう一つ、この作品で注目してほしいポイントがあります。それは、サインが書かれていないところ。絵画は作者を証明するものとしてサインを入れることが基本とされています。ただ、当時、皇室が依頼した作品にはサインを入れないという決まりがあったので、依頼元は皇室だった可能性があるのかもしれません。そう考えると、ちょっとワクワクしませんか?」(河野館長)。

司書の成澤さんや河野館長のお話から、浮世絵の楽しみ方が十分にわかりました。絵を見てもわからなければ、解説を見ればいいと思うと、緊張がほぐれますね。

(写真)芝居町 新吉原 風俗絵鑑(車引)肉筆画帖 絹本着色 静嘉堂文庫蔵 前期展示

笑いの絶えない講演会に参加してみよう

展覧会初日のトークショー参加者たちphoto:コロコロ

今回の取材を受けていただいた静嘉堂文庫美術館では、展覧会ごとにトークショーや講演会などを行なっています。館長は自らを「饒舌館長」と名乗り、日本美術に関する思いをご自身のブログでつづっています。美術の講演会と言うと、難しい印象を持つかも知れませんが、静嘉堂文庫美術館で行われているのは、「館長のおしゃべりトーク」と、タイトルを聞いただけでもなんとも面白そうなイベント。そんなイベントはどうやって考えられているのでしょうか。

「ターゲットも、知識レベルも決めずに、万人が楽しめるように考えています。日本美術に関して初心者の方には少し高度かな、と思う内容も入っています。けれど、美術に興味のある人がみんな面白く聴いてもらえるように、難しいことを面白く、笑いをとりながら話をしているので、ぜひ聞きに来てください。」

(展覧会が始まる初日に行われたトークショー。左からナビゲーター:中村剛士氏、太田記念美術館 主席学芸員:日野原健司氏 主任司書:成澤麻子氏 館長:河野元昭氏)

展示の中にも基礎知識があるのでお見逃しなく

会場入り口の展示の様子photo:コロコロ

美術館に訪れるのが初めてでも、ちょっとした知識と、見方のポイントをつかめば、十分楽しむことができます。私のおすすめは、会場入口の、錦絵を作成する人たちを描いた展示です。絵師、彫師、摺師の分業、その中には刃物を研ぐ人までが描かれていますよ。こちらの展示会は、美術館初心者でも楽しめる工夫がたくさんあるので、興味のある方は訪れてみてはいかがでしょうか。

(写真右)今様見立士農工商 職人 大判錦絵3枚続 静嘉堂文庫蔵 前期展示(後期は複製展示)
(写真左)今様見立士農工商 商人 大判錦絵3枚続 静嘉堂文庫蔵 前期展示(後期は複製展示)

【注意】開催期間は、前期・後期でほぼ展示替えがされます。ここに紹介した作品は前期中心です。予めご了承ください。
<前期>2018年1月20日(土)~2月25日(日)
<後期>2018年2月27日(火)~3月25日(日)

photo / 写真の無断転載を禁じます

『「歌川国貞展」~錦絵に見る江戸の粋な仲間たち~』

会場:静嘉堂文庫美術館
住所:東京都世田谷区岡本2-23-1 
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
営業時間:午前10時~午後4時30分(入館は午後4時まで)
休館日
毎週月曜日(祝日の場合は開館し翌火曜日休館)
※展覧会期間以外は休館です。常設展示はございません。
※展覧会期間は『開館日』の平成29年度年間スケジュールをご確認ください。

『河野元昭館長のおしゃべりトーク』
日時:2018年3月3日(土)
題目:桃山風俗画私論
講師:河野元昭(静嘉堂文庫美術館館長)

http://www.seikado.or.jp/

この記事を書いた人

コロコロ ライター。著書は10冊ほど。ここではその専門分野についてではなく、趣味の美術鑑賞の情報発信にチャレンジします。最近はビジネスに活かすアート鑑賞も注目されていま...
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