いつもの散歩をもっと楽しく。地理女子に教わる、まち歩きの新しい楽しみ方

地理を愛好する女性たち。そんな意味を成す「地理女子」。ちょっぴりディープだけど、地理を知るほど、ふだんの街の景色が変わり、日常がもっと楽しくなる。今回は地理女子の生態とともに、地理女子が教える、まち歩きの楽しみ方をご紹介します。
 渡邊 孝明

「地理女子」たちに聞いた、地理の面白さとは?

今回、地理女子として地理の魅力についてお話を伺ったのは、お茶の水女子大学で地理学を専攻する学生の木村さん、飯田さん、平岩さんの3人。プライベートだけではなく、学問としても地理を愛好する彼女たちに、ちょっぴりマニアックな地理の魅力から、まち歩きをもっと楽しむための方法を伺いました。

−−地理に興味を持つようになったきっかけは?

木村さん「私は大学進学を機に上京して、地元と東京の違いを強く感じるようになり、ある特定の場所に対してアプローチする学問の地理学に興味を持ちました。上京して最初の頃はなかなか東京に馴染めなかったんです。なぜ地元にはふつうに慣れ親しんでいたんだろうという疑問が生まれ、少しでも今住んでいる場所を好きになりたいなと思って。好きになれたら生活ももっと楽しくなるかなと思うようになりました」。

飯田さん「もともと両親が地理好きで、家族で幼い頃から都内を電車で巡ったり、歩いていろんなところに出かけたり。小学生の頃から自転車でたどったルートを全部地図に書き込んだりしていましたね。そんなこともあり、何の抵抗もなく、いつの間にかこの世界に入っていました(笑)。
今では地理について学びたいことが色々あります。学問としての地理は、たとえば文化や交通など場所に関することなら基本的に自由に学ぶことができるので、選択肢がいろいろあることも楽しさにつながっています。そういう意味でも、地理はどんなことにも通じていて、何でもできるのが魅力の一つだと思います」。

平岩さん「私は自分でも気付かないうちに地理に興味を抱いたのですが、一番の理由はわかりやすいこと。地理学は見えるんです(笑)」。

−−“地理が見える”とは、いったいどういうことでしょうか?

平岩さん「地理は基本的に地表のものごとを扱うので、自分の目で見て確認することができます。たとえば、歴史なら古文書や家系図などの資料を見ながら今は見えない過去を再現しようとしますが、地理は対照的で、過去の様子が今見える街の構造そのものに反映されていることがあります。土地の使い方などを見ることで、誰にでも分かるんです。そういう単純なところが自分に合っていて好きですね」。

まち歩きの楽しさは“点”ではなく“面”にある

−−地理について個人的な関心やハマってることはありますか?

木村さん「地理から発展して、社会学や建築、美術など、色んな方向に関心があります。地理の領域が広いので、あれもこれも関心が広がり、ものすごく楽しいです。
愛読書としてコンパクトな文庫地図を持ち歩いているのですが、いつも出かける前に見て、自分の好きな寺社仏閣や美術館、坂などが同じエリアにあると、10キロ弱で歩くルートを決めてから散歩に出かけたりしています」。

飯田さん「点と点でイメージしている街の印象をつなげる作業にハマっています(笑)。東京メトロの駅は179駅あって、小さいエリアに路線がギュッとかたまっているのですが、降りる駅によって街の印象が違うんです。それが私にとって魅力的ですね。
最近はあえて普段降りる駅から何駅か先にある、まだ降りたことのない駅で下車したりします。適当な場所を歩いて、“この街と、この街って、意外と近かったんだ”と気付いたり。そうやって、一つの地域に限定しないで、ちょっと別の地域にも足をのばしてみると新しい発見があるのでおすすめです」。

−−歩いた分だけ気付きがあるのも、まち歩きの楽しみでもありますね。

飯田さん「そうですね。この前は千代田区の溜池山王から港区の赤坂、青山一丁目を経由して、新宿区の信濃町まで歩きました。歩いてみるまでは四ツ谷と赤坂が近いというイメージが全然なかったのですが、思っていた以上に近かったことを実感したり、赤坂はほんとに坂が多いんだとか、そういう発見がすごく楽しくて(笑)。歩いているとだんだん風景が変わったり、街によっては坂を下るだけでも雰囲気がガラッと変わることもあります。そういう気付きみたいなものを得るのが好きですね」。

平岩さん「街を歩くと、ちゃんと景色の移り変わりのグラデーションが見えるんです。一つの場所にしか行かないと、一つのものしか見えないかもしれないですが、街を移ることで変化を実感することができます。本郷から坂を下りて上野の方に行くと、東大や文芸家の記念館などがある文化的な雰囲気の場所から下町のざわっとした雰囲気に変わったり。歩いている人の世代もファッションも建物も。その違いを肌で感じることができるのが楽しいです」。

木村さん「原宿と表参道と渋谷のトライアングルも、なかなかユニークで楽しいですね。代々木公園のような広くて緑が多い場所から、急にざわざわっとした原宿の若い人たちがたくさん集まる場所があって、そこから洗練された表参道のような街に続いていく流れ。劇的な変化があって面白いです」。

平岩さん「地形も街を見るときに意識しているところです。坂が多い地域では坂の上と下の地域でも違いがあって、大体、道路や鉄道は土地が低く、谷になっている高低差が小さいところを一本の線で走っています。その線路の周りは地価が高くなるので周りにマンションなどが建っていて、坂の上になると一戸建てが多く、住んでいる人の雰囲気や、家同士の間隔や高さ、大きさも違いがあるのでとても興味深いです」。

飯田さん「地理に関心を持つだけで、どんな場所に出かけても楽しくなります。たとえば、観光スポットが少ない地方などに旅行に出かけても、つまらないと思ったことはありません。どこも地形が違うので、空間としてまわりの構造を見たり、なぜ観光スポットがないんだろうという疑問から生まれる楽しさがあります。観光地をスポットごとに、点で巡るのはもったいないなと思うようになりました。やっぱり、旅行も点ではなくて面で巡りたいですね」。

まち歩きだけではない、日常で役立つ地理

−−まち歩きの視点での地理の魅力や楽しみ方のほか、地理に関心を持つことで、日頃の生活に役立つようなことはありますか?

平岩さん「災害です。地図を見ることで、いま川が流れていないところでも、昔流れていたことがわかります。万が一、川が氾濫した時に浸水しないエリアかどうか事前にチェックすることができるので、まちの雰囲気だけで住む場所を決めず、その場所が危ないかどうか判断できるのは実利的なことだと思います」。

飯田さん「実際に私の実家では住む場所を決める時に、色々な地図を見たり、ハザードマップで川の流れを調べて、もしこの場所で洪水が起こっても車は流されても、家は大丈夫だということで家を建てました。地理を知っていることで、なんらかの得がある(笑)。生活が豊かになると思います。自分が住んでいる場所や、勤務先、旅行先でも。その場所を知っているだけで歩くことが楽しくなります。引っ越しなどで新しく住む場所を探すのもすごく楽しいですね」。

あらゆるものとリンクしている地理は奥が深い!

地理女子にお話を伺ってきましたが、今回はまち歩きの視点から、地理にまつわる魅力や楽しみ方を、ほんのひとつまみ。“地理はこういうもの”といった限定的な領域ではなく、それに付随したあらゆること、つながっているものすべてが地理なのだということがわかりました。私たちは日常から無意識のところで地理とつながっていて、それを少し意識してみることで、さらに生活が豊かになることもあるのだと。いつもとはちょっと視点を変えて、まずはまち歩きから地理を楽しんでみませんか?

photo / 渡邊 孝明

取材協力:地理女子(お茶の水女子大学)

https://twitter.com/chiri_joshi

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