謎が謎を呼ぶ不思議な世界観。国立西洋美術館で開催『アルチンボルド展』

6月20日(火)より東京・上野の国立西洋美術館で開催されている『アルチンボルド展』。だまし絵などでお馴染みのアルチンボルドが手がけたユーモア溢れる構想と、絵画世界を堪能できる本展覧会をご紹介します。
 新 麻記子 読者ライター

宮廷画家であり、演出家でもあったアルチンボルド

16世紀後半に、ウィーンとプラハのハプスブルク家の宮廷画家として活躍したアルチンボルド。果実や野菜、動物や道具など、思いがけないモティーフを組み合わせる、ユニークで寓意的な肖像画を数多く生み出したことで知られています。だまし絵などで動植物のモティーフを集めた肖像画をご覧になられた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

自然科学に深い関心を持つマクシミリアン2世、稀代の芸術愛好家で知られるルドルフ2世など、神聖ローマ皇帝たちの寵愛を受けて25年間仕えました。人々を驚かせる肖像画を制作する宮廷画家だけでなく、宮廷での祝事などの企画や劇の衣装作りなど、異彩を放つ宮廷の演出家でもありました。
本展覧会では、アルチンボルドが歩んできた人生と環境に的を絞り、7つのセクションに分けて、油彩回素描(帰属作品等含む)計30点を中心に、およそ100点もの出品作品から、彼のイメージ世界の生成や制作の謎に迫っていくものです。

世界中のものでできた8人の顔

アルチンボルドは、「四季」と、世界を形成する4つの要素と考えられていた「四大元素」、《大気》《火》《大地》《水》を人で表現しました。様々なものが描かれているこの絵画には、鑑賞者を楽しませるだけでなく、この世界を支配する皇帝を褒め讃える意味がありました。

アルチンボルドの代表作である「四季」。その中の《夏》(写真左)は、当時のヨーロッパの人々がどのような野菜を食べていたのかを知ることができます。アルチンボルドはその頃の北ヨーロッパでは珍しかった、とうもろこしやナスなどの野菜を描くことにより、皇帝の権力を表現しました。《大地》(写真右)という作品では、35匹もの動物たちが犇めき合っています。驚異の自然観察で表現されているこちらの作品は皇帝の威厳を象徴しています。
当時、マクシミリアン2世はヨーロッパにはなかった動物や珍しい植物を世界中から集めて学者たちに研究させました。そして、動物園や植物園を作って人々を驚かせたそうです。アルチンボルドはこの動物園で、動物たちを観察しながらスケッチしました。
今でもウィーンに数多く残されている繊細なスケッチは、自然科学が活発化したルネッサンス期の画家、レオナルド・ダ・ヴィンチの影響を受けているそうです。

遊び心溢れる素敵なアイディア

アルチンボルドは、「四季」、「四大元素」以外にも遊び心溢れる素敵なアイディアで様々な作品を残しています。こちらの作品は、グラスやワイン樽、じょうごなど、ワイン造りには欠かせないもので肖像画を描いた《ソムリエ(ウェイター)》。その他にも、一見野菜や動物の“静止画”と捉えられる作品も、逆さまにひっくり返すと庭師やコックといった“肖像画”に変わるものなど。このようにアルチンボルドは想像力を使って工夫を凝らした絵画作品を次々と制作していきました。

不思議なアルチンボルドの世界

20世紀のシュルレアリスム以降の画家たちだけでなく、丁寧に植物を研究する学者たちにも、学ぶべき基礎として大きな衝撃を与え、自然科学の発展に貢献したアルチンボルド。奇想と知、驚異と論理とが分かちがたく交錯する作品は、時として暗号のようにして絵解きを誘います。

本展覧会では、日本初公開となる作品も展示されるだけでなく、会期中に講演会やスライドトークが企画されています。また、自分の顔がアルチンボルドが手がけた作品のようになる“アルチンボルドメーカー”や、ミュージアムショップでは自分だけのオリジナルのアルチンボルドの《春》が作れるマスキングロールステッカーなど、アルチンボルドの高度に知的で洗練された絵画芸術を堪能してみてはいかがでしょうか。

photo / 新麻記子

『アルチンボルド展』
※《大気》と《火》は6月24日より公開予定
会期:6/20(火)~9/24(日)
会場:国立西洋美術館
開館時間:午前9時30分~午後17時30分
     毎週金・土曜日:午前9時30分~午後9時
     (ただし6月23日、24日は午前9時30分~午後8時)
     ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、7/18(火)(ただし、7/17、8/14、9/18は開館)

http://arcimboldo2017.jp/

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