アカデミー賞レース席巻!美しい痛みを描いたポエティックな傑作『ムーンライト』

第89回アカデミー賞計8部門にノミネートされ、作品賞を含む3部門に輝き熱狂的な賛辞を贈られている、3月31日(金)より日本公開の話題作!自分の居場所を探し求める主人公の姿を、色彩豊かで圧倒的な映像びと情緒的な音楽とともに3つの時代で綴った『ムーンライト』を紹介します。
 新 麻記子 読者ライター

あまりに純粋すぎる想いに、世界中が虜になるストーリー

学校では“チビ”というあだ名でいじめられ、麻薬常習者の母親のポーラからは育児放棄をされているシャロンはマイアミの貧困地域で暮らしている内気な性格の男の子。生活の中で行き場を失ったシャロンでしたが、彼にとっての唯一の救いは、自分の親代わりになってくれる、近所に住む麻薬のディーラーの男、ホアンとその妻、そしてたった1人の男友達のケビンでした。そんな日々の中、シャロンは、ケビンに惹かれている自分に気づきます。しかし、このコミュニティではこの感情は受け入れてもらえないと、幼いながらも勘づいていたシャロンは、誰にも、もちろんケビンに対してもそのことを伝えられずにいました。そんな時、ある事件が起きて…。

世界中を魅了しているのは、何故?

photo:© 2016 A24 Distribution, LLC

本作の原案は、高い評価を受けているマイアミ在住の高い評価を受けている劇作家、タレル・アルバン・マクレイニーが指導する演劇学校の授業のプロジェクトとして書かれた『In Moonlight Black Boys Looks Blue (月の光の下で、美しいブルーに輝く)』と題する短い戯曲です。
『ムーンライト』は人種、年齢、セクシュアリティを越えた普遍的な感情が描かれており、本作の大きなテーマは“アイデンティティ”を探し求めているところに他ありません。タイトルである“ムーンライト(月光)”とは、暗闇の中でも輝く光、自分が見せたくない光り輝くものを暗示しています。誰もが一度は人生のどこかのタイミングで同じようにもがいたことがあるでしょう。どうにもならない日常、胸を締め付けられる痛み、初恋のような切なさ、いつまでも心に残る後悔…思いもよらぬ再開により、秘めた想いを抱え、本当の自分を見せずに生きてきたシャロンの暗闇に光が差した時、心は大きく揺さぶられ、深い感動と余韻に包まれます。

“見るべき20人の監督”に選出された バリー・ジェンキンス監督

photo:© 2016 A24 Distribution, LLC

本作の監督であるバリー・ジェンキンスは、1979年11月19日生まれ、アメリカ・フロリダ州マイアミ出身。フロリダ州立大学で文学学士と映画の美術学士を取得後、ロサンゼルスに移り住み、2005年『彼らの目は神を見ていた』(公開未定)で監督助手を務めました。長編監督デビュー作『Medicine for Melancholy(原題)』(08)はニューヨークタイムズ紙のA・O・スコット選で“2009年の最優秀作品”に選ばれました。2010年、ジェンキンス監督はCM会社ストライク・エニウエア・フィルムズを共同で設立。黒人少年の成長を描いた長編2作目となる本作『ムーンライト』(16)が全米の賞レースで脚光を浴び、ゴールデングローブ賞で作品賞(ドラマ部門)を受賞しました。さらに、アカデミー賞でも作品賞・監督賞・脚色賞を含む8部門にノミネートされ、見事、主要部門である作品賞と脚色賞を受賞。俳優のマハーシャラ・アリも助演男優賞に輝きました。

偶然にも本作の戯曲家と同じく危険で荒れたリバティ・シティ公営住宅に育ち、重度の麻薬中毒者である母親に育てられたジェンキンス監督。そういった意味でも自身の体験が作品に息づいているのです。

1人の若者が抱えるカタルシスが自分と共鳴する

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『ムーンライト』は非常に特殊な場所を舞台にしていますが、そこに描かれているテーマは自分に居場所がないと感じる人に向けられています。そして、映画の中でセクシュアリティは中心的なテーマや決定的な特徴にはなっていません。これはジェンキンス監督の手法が、キャラクターの微妙な感情や心の動きに主観をおき、それらを繊細に表現しているからです。1人の若者の個人的な葛藤を描く物語のコアに触れられたとき、他者が抱えている普遍性へとつながります。この作品は人種や差別、年齢、性的志向を超えて、他人と一体感を抱くものだとわかることでしょう。

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『ムーンライト』

3月31日(金)TOHOシネマズシャンテ他全国公開!
監督:バリー・ジェンキンス
キャスト:トレバンテ・ローズ、アンドレ・ホランド、ジャネール・モネイ、アシュトン・サンダース、ナオミ・ハリス
配給:ファントムフィルム

http://moonlight-movie.jp/

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