色の重なりに、思い出の光景が重なる。いとうりえこさんの手描きで染めた美しい日傘

夏の必需品である日傘。手にするなら、心からお気に入りだと思えるものにしませんか?テキスタイルアーティストのいとうりえこさんが手染めした布で作られる日傘は、いつまでも眺めていたくなるような美しい色が広がります。その染め方は一風変わった方法。どんなふうに作られているのか伺ってみました。
 ゆりか

一つひとつ手染めで作られる美しい布小物

日傘というと紫外線や日差しを遮るためのアイテムですが、お気に入りのデザインであれば、お出かけがもっと楽しくなるのではないでしょうか。
私自身、デザインに惹かれて「こんな日傘を持ちたい…!」と感じたのが、テキスタイルアーティストのいとうりえこさんが作る日傘です。

いとうさんは、一つひとつ手染めしたオリジナルの布で、一点物のストールやバッグなどの布小物を制作しています。
手染めというと、布を染料に浸して染めるのをイメージする方が多いかもしれませんが、いとうさんの作品は少し異なります。

生地と向き合いながら、手を動かしていく

いとうさんは、まず生地を選んで裁断すると、それをお湯で煮て油分やホコリなどを取り除き、乾かしてから染めの作業に入ります。
染める際に用いるのは、筆と染料。ピンと張った生地に、筆で絵を描くようにしながら染めていくのです。

いとうさんが手を動かすたび、いくつもの色が重なり合い、抽象画のような美しい模様ができていきます。
綿や麻などの素材や糸の太さによって、同じ染料を使っていても染まり方は異なります。いとうさんは、染める前に頭の中にある完成図にとらわれすぎないよう、目の前の生地にどのような線や色が広がるかを大切にしながら描いていくそう。
染めあがった生地には薬品で定着処理をし、何度も水洗いをして色落ちしないよう仕上げられます。

内側まで丁寧に染められ、視界に模様が広がる日傘

作られるアイテムが日傘の場合、生地の表側を染めた後、さらに裏返しにして反対側からも染めているのだそう。それにより、傘を開いたときに内側からも色と模様が綺麗に見えるのです。
持ち歩いている間、ふと見上げれば美しい模様が目に入ってきます。写真の日傘なら、木漏れ日の下を歩いているようで、穏やかな気分になれそうですね。

思い出の情景を呼び起こすような色の重なり

6月19日(水)から銀座で開かれる個展に向け、現在制作しているという傘の布を見せていただきました。
写真左は、夏の陽の光をイメージしたもの。太陽の光が目に見えたらどんな感じだろう?と想像し、いとうさん自身が抱く夏の情景を重ねながら描いているそう。写真右は、運河の水面。街中を悠々と流れていく水の姿と、そこに反射する光が表現されています。

ほかにも木々の下から空を見上げたときの光景や、淡い紫色の花をモチーフにしたものなどを制作予定だそう。

いとうさんがインスピレーションを得るのは、日常の中や旅の途中でハッと気づかされる景色の美しさや、心に残る色だといいます。

「目に見えた風景をそのまま描き出すというよりも、感情や情景を含んだ、記憶の中の色や匂いを大切に染めています」(いとうさん)

私が初めていとうさんの染めた布を見たとき、かつて目にした夕焼け空や草原などの光景と、そのときの思いが蘇ってくるような気がしました。それは、いとうさんの心に残るものが反映されているからなのかもしれません。

あなたの心に響くテキスタイルを見つけて

日傘は6月19日(水)から東京の松屋銀座で1週間開催される個展でお目見えの予定です。ほかにも、ストールやスカーフなど、夏に身につけたくなるアイテムが並ぶとのこと。ぜひ足を運んで、あなたの心に響くものを見つけてください。

photo / いとうりえこ

いとうりえこ

http://riekoito.com

「なつのいろ」
日時:2019年6月19日(水)~6月25日(火) 
10:00~20:00※23日(日)は10:00~19:30、最終日25日(火)は10:00~19:00
場所:東京都中央区銀座3-6-1
松屋銀座 7階デザインギャラリー1953

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