唯一無二の天才デザイナーの謎に迫る『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』

世界のセレブやファッションアイコンから支持される孤高のファッションデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテン。アトリエでの仕事風景や私生活に密着し、究極の美を創り出すインスピレーションの源を垣間見ることができるドキュメンタリー映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』をご紹介します。
 新 麻記子 読者ライター

魂が揺さぶられる創作プロセス

ミシェル・オバマ前大統領夫人やニコール・キッドマン、アイリス・アプフェルなど、世界のセレブリティやファッションアイコンが愛して止まないファッションデザイナーのドリス・ヴァン・ノッテン。
広告は一切出さず自己資金だけで活動し、手軽な小物やアクセサリーは作らず、洋服だけで世界と勝負する潔さは、他の一流ブランドの追随を許さず、“独立系ブランドの雄”と呼ばれています。

1月13日より公開されたドキュメンタリー映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』は、2014年9月にパリのグラン・パレで開催された「2015春夏レディース・コレクション」の舞台裏から、2016年1月にオペラ座で発表した「2016/17秋冬メンズ・コレクション」の本番直後までの約1年間に密着。彼が半年間かけて創り上げた努力の結晶を、幼さの残るモデルに自ら着付けるショーの舞台裏や世界中に特注した生地のサンプルが整然と並べられたアトリエ風景、インドで彼の要望に応えるためにフル回転する刺繍工房など、創作活動の全貌を明らかにしています。
そんなドリスの創作活動を支えるインスピレーションの源のひとつが、パートナーのパトリックと暮らすアントワープ郊外の邸宅。季節ごとに表情を変える花園や家庭菜園を、ドリス自らが案内し、採れたばかりの野菜を手際よく調理する貴重な映像も収められています。

ドリスの情熱に迫る

1958年、ベルギー・アントワープで生まれた“ドリス・ヴァン・ノッテン”。生家はテーラーとブティックを経営し、ドリス自身も少年時代から父に連れられ、ミラノやパリなどのショーやコレクションを見学していました。親の影響で幼少期から一流に囲まれて育ち、手仕事の美しさを誰よりも熟知しているからこそ、インドの刺繍工場で「高い技術を持つ職人を保護したい」と語る姿は、消えゆく伝統工業の守護天使のように感じられました。

作中に発せられるドリスの言葉には“服作りの哲学”が余すことなく伝えられています。そんな彼の姿勢が、半年で寿命が尽きてしまう“ファッション”ではなく、時間の贈り物と表現される“モード”に昇華され、芸術と呼ばれるレベルまで高められているからこそ、今日に至るまでの成功に繋がっているのでしょう。

ファッション界を超越したドキュメンタリー

冷静沈着で“病的な完璧主義者”と自嘲するドリスに密着したのは、「マグナム・フォト 世界を変える写真家たち」で知られる、ドキュメンタリー監督のライナー・ホルツェマー。3年にも及んだ取材交渉の末にドリスから撮影許可を得たというだけあり、ドリスファンが知りたかった私生活についての質問を重ね、パートナーであるパトリックへの想いを語る映像を引き出すことに成功しました。
また、作中の音楽を担当するのは、イギリスのロックバンド、レディオヘッドでベースを奏でるコリン・グリーンウッド。2013年に開催された「2014春夏レディース・コレクション」で音楽を手掛けた縁もあり、本作で映画音楽を担当しています。

これまで殺到する密着取材を断ってきた孤高のファッションデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテン。本作品では、美しいものを愛し、スキャンダルとは無縁で何事にも全力で取り組む完璧主義者がのぞかせた意外な素顔に迫っています。ファッション映画の枠を超えて、人にフォーカスしているので、ドリス・ヴァン・ノッテンを知っている人はもちろん、知らない人にも見て欲しい映画作品です。

photo / (C) 2016 Reiner Holxemer Film - RTBF - Aminata bvba - BR - ARTE

『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』

2018年1月13日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次ロードショー
監督:ライナー・ホルツェマー『マグナム・フォト 世界を変える写真家たち』
音楽:コリン・グリーンウッド(レディオヘッド)
出演:ドリス・ヴァン・ノッテン、アイリス・アプフェル、スージー・メンケス
配給:アルバトロス・フィルム

http://dries-movie.com/

※掲載内容は記事公開時点のものです。最新情報は、各企業・店舗等へお問い合わせください。
内容について運営スタッフに連絡

関連キーワード

関連特集