インドで生まれたハンドメイド絵本『世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦』

現在、板橋区立美術館にて、ユニークな本を刊行し続けるインドの出版社「タラブックス」の本づくりの全容を伝える展覧会が開催されています。民俗芸術の伝統を出版に結びつけ、色鮮やかなハンドメイド絵本を生む、クリエイティブな本づくりに迫ってみましょう。
 新 麻記子 読者ライター

世界各国から熱い眼差しを集めている出版社

世界中の本好きを魅了し続ける、南インド・チェンナイにある出版社「タラブックス」。美しい本を次々と世に送り出しています。その評価は高く、作家やイラストレーター個人に贈られるのではなく、編集や装丁などを含めた総合的な作品として本そのものに贈られるボローニャ・ブックフェア・ラガッツィ賞をはじめとする数々の賞を受賞しています。

1994年の設立以来、ギータ・ウォルフとV・ギータの2人のインド人女性が中心となり、企画・編集から印刷・製本、そして造本にまでこだわりを持ち、独自のスタイルで質の高い本をつくり続けています。

本展では、「夜の木」や「水の生きもの」を含め民俗画家たちとの本づくりを中心に、タラブックスの出版活動を絵本、原画、写真、映像など約300点の資料で紹介。世界各国から熱い眼差しを集めている「タラブックス」の、社会的なコミットと挑戦のスピリットを感じられる展示となっています。

指先から伝わる素朴な温もり

展示されている絵本の中には、民俗画家による絵を版画の技法で厚みのある手すきの紙に印刷し、1冊ずつ職人が糸で製本しているハンドメイド作品のものあります。ハンドメイド本のみではありますが、時代に逆行するかのように、自社の印刷製本工房で制作しています。
そうやって丁寧に作るために発注から納品まで1年かかってしまうこともあるスローな生産スピードにもかかわらず、今や数万部のベストセラーをいくつも抱えています。

この本を作るにあたっては、“地球にやさしい取り組み”の配慮もなされています。たとえば、印刷に使われるインクは大豆由来のものを使用しており、制作の途中で発生する半端な紙も捨てずに再利用しているそうです。

会場では「タラブックス」の絵本が読める読書コーナーが設けられています。実際にページをめくりながら、指先から伝わる温もりに触れ、目で色を楽しんでみてください。鮮やかでビビットな色彩にもどこか優しさが感じられます。

芸術作品のような美しさ

インド各地には多様な民俗画家たちが存在し、壁や床に絵を描いたり、工芸品を制作しています。しかし、そのような生活の中で営まれてきた表現活動は、私たちの目に触れる機会は少なく、埋もれてしまっています。そんなインド各地に住むアーティストの才能を、「タラブックス」は“出版”することで世界に発信し、アートがさらに多くの人に見られるようサポートしています。

タラブックスはその一方、ハンドメイド本以外に多彩な本も刊行しています。画家、編集者、デザイナー、印刷職人らによるチームワークから生み出される本には、本の形状が見慣れた冊子ではなく、蛇腹になっているなど、ユニークなものが数多くあります。

社会的なコミットと挑戦のスピリット

「タラブックス」は、子供たちに読書の楽しさを教えることはもちろん、埋もれていく少数民族の独自文化を伝説や民話などから伝えることで、その芸術を支援しています。さらに、日本をはじめ外国のアーティストやデザイナーを積極的に起用し、インドの社会問題や商業美術も取り上げる取り組みも行うなど、既成概念を超えた挑戦を続けています。

「タラブックス」の絵本は、一般的な絵本やデザイン書という枠組みを越えて、消費的な私たちの生き方について大切なヒントを教えてくれる作品です。ぜひ、大人も楽しめる“絵本”に触れられられる上に、大人だからこそ“学べる”展覧会に足を運んでみてはいかがでしょうか。

photo / 新麻記子

『世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦』

会 期:2017年11月25日(土)〜2018年1月8日(月・祝)
開館時間:9時30分~17時(入館は16時30分まで)
休 館 日:月曜日(1月8日は祝日のため開館)、12月29日〜1月3日
観 覧 料:一般650円、高校・大学生450円、小・中学生200円

http://www.itabashiartmuseum.jp/exhibition/2017-exhibition/ex171125.html

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