北斎と西洋の名品が夢の共演『北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃』

現在、国立西洋美術館で開催している『北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃』。浮世絵師・葛飾北斎の作品と西洋の名作とが夢の共演を果たします。北斎を切り口にジャポニスムという現象を読み解いていく大規模展覧会をご紹介します。
 新 麻記子 読者ライター

見比べる北斎と西洋名画

19世紀後半、日本の美術が、新しい表現を求める西洋の芸術家たちを魅了し、“ジャポニスム”という現象が生まれました。その中でも、最も注目されたのが天才浮世絵師・葛飾北斎です。その影響は、印象派の画家であるモネやドガらをはじめとし、欧米の全域にわたり、絵画、版画、彫刻、ポスター、装飾工芸などのあらゆる分野に及びました。

本展覧会は、西洋近代芸術の展開を“北斎とジャポニスム”という観点から編み直す日本発・世界初の試みです。モネ、ドガ、セザンヌ、ゴーガンを含めた西洋の名作約220点と、北斎の錦絵・版本約110点を比較しながら展示しています。北斎という異文化との出会いによって、欧米の人々はどのように捉え、どのように作品に取り入れたのでしょうか。


(写真:左)トーマス・モラン「激しく荒れる波」1884年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー
(写真:右)ニルス・スコウゴー「皿:波とカモメ」1888年 デザインミュージアム・デンマーク・コペンハーゲン

人物の体勢と画面の構図

作品を見比べながら人物の体勢に着目してみてください。北斎は絵手本として発行したスケッチ画集『北斎漫画』で、人物、風俗、動植物、妖怪変化まで約4000図を描きました。 バレエの踊り子たちをモデルにした作品を多く生み出すフランスの画家、エドガー・ドガは、バレリーナの踊る姿ではなく、敢えて休憩中の気を抜いている姿を描いています(写真:右から2番目)。また、アメリカの女性画家であるメアリー・カサットも、ありのままにくつろいでいる子供の姿を描いています。何気ない体勢を描くというアイディアは北斎の人物に対する仕草から学んだのかもしれませんね。

(写真:左)エドガー・ドガ(鋳造:エブラール)「着衣の踊り子のための裸体習作》1879-80年(鋳造1919-21年」 ニイ・カールスベア・グリプトテク・コペンハーゲン
(作品右)エドガー・ドガ「舞台袖の3人の踊り子」1880-85年 国立西洋美術館

また、作品の構図にも注目してみてください。沢山の浮世絵を収集していたクロード・モネが手がける作品では、浮世絵からヒントを得たことが見て取れることでしょう。写真のように途中で切り取られている作品では、途中までしか見えないため動きが感じられ、その先を自分の想像で補うことができます。また、作中に同じモティーフを繰り返している作品では、テンポ感を生み出すことでインパクトを与えていますね。

(写真:左)クロード・モネ「陽を浴びるポプラ並木」1891年 国立西洋美術館(松方コレクション)
(写真:右)葛飾北斎「冨嶽三十六景 東海道程々谷」1830-33(天保元-4)年頃 ミネアポリス美術館

小さな生き物が主役、ありのままを捉える

北斎は、自然の中の身近な動植物の作品も描きました。ヨーロッパやアメリカにも、多くの昆虫はいましたが、北斎のように動植物を主役で描くことはありませんでした。北斎が小さな生き物に注目したことで、西洋の工芸品に虫や鳥、草花などが多く反映されるようになったと言われています。

また、北斎のありのままに自然を捉えた作品に魅了されたのは、情熱の画家で知られるフィンセント・ファン・ゴッホ。これまでのヨーロッパの静物画は、花瓶に活けた花を描くのが典型でしたが、北斎の影響で野生の植物にもクローズアップして描くようになりました。風が吹き、虫が飛ぶ、自然の中のありのままの姿を描く視点は、北斎だけでなく、日本美術から学んだのでしょう。

(写真:左)アンリ・ベルジェ/ドーム兄弟 「花器:朝顔」1907-10年頃  ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館・ロンドン
(写真:中央)エミール・ガレ「ランプ:朝顔」1904年頃 ヤマザキマザック美術館
(写真:右)ルイス・コンフォート・ティファニー/ティファニー・スタジオ「花器:朝顔」1970-80年 三菱一号館美術館

瞬間の動きを捉える、“連作”という概念

《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》は、誰しも一度は目にしたことがあるであろう北斎を代表する作品の一つです。大きく立ち上がった迫力のある波から、波しぶきの音まで聞こえてきそうな作品は、欧米の芸術家や音楽家まで、この作品から多くの着想を得たと言われています。ロダンの弟子だったカミーユ・クローデルは、この大波を彫刻で表現しました。また、美しい音楽を生み出したドビュッシーは、波をイメージした楽曲を発表しています。

また、独自の絵画様式を探求したポール・セザンヌは、北斎の富士山を捉えた「冨嶽三十六景」のように、南仏のサント=ヴィクトワール山を、異なる視点から捉えた絵画を複数残しています。同一のモティーフを繰り返し描く“連作”という方法を北斎から学んだようです。

カミーユ・クローデル 「波」1897-1903年 ロダン美術館・パリ

再発見から見出せる豊かさ

会期中は、作品の展示替えがあるだけでなく、関連講演会やスライドトークも開催されます。そして期間限定で楽しめるコンテンツが登場する画家にフォーカスしたスペシャルウィークの他、お得な特別セットが販売される各週共通のイベントや、“食と芸術”にテーマを置いてトークを行う面白いイベントなども予定されています。展覧会と併せて楽しんでみてはいかがでしょうか。

北斎と西洋の夢の共演が織りなす本展覧会は、北斎という異文化との出会いによって、生み出された西洋美術の名品を堪能しながら、西洋の芸術家の眼を通して北斎の新たな魅力が感じられます。それは日本文化を再発見できると同時に、西洋文化を取り入れている私たちに、日々の生活に豊かさを見出すヒントになり得ることでしょう。是非、会場に足を運んでみて下さい。

(写真:左)葛飾北斎「冨嶽三十六景 駿州片倉茶園ノ不二」 1830-33(天保元-4)年頃
(写真:右)ポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山」 1886-87年

photo / 新麻記子

『北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃』

会場:国立西洋美術館
会期:2017年10月21日(土)~2018年1月28日(日)
時間:9:30~17:30(金曜・土曜日は20:00まで。11月18日は17:30まで)
   ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし1月8日は開館)、12月28日~1月1日、1月9日
料金:当日:一般 1,600円、大学生 1,200円、高校生 800円、中学生以下無料

http://hokusai-japonisme.jp

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