猫が教えてくれること「家族」/編集ディレクター・野辺真葵さんの場合vol.2

猫の猫らしい行動に、自分の生き方を重ねてハッとする瞬間があります。編集ディレクターの野辺真葵さんもその一人。動物になんの興味もなかった野辺さんが、ベランダに置いた空き箱に「通い寝」をしに来ていた野良猫を飼うことになった意外な理由とは?
 宇佐見明日香

「一刻も早くおうちに入れてあげて欲しい」

夜中の2時、自宅の1階で「ぐり」(メス・推定6歳)が鳴く時は、たいてい大好きなブラッシングを要求している時。その声に気づき、眠い目をこすりながら2階から降りて来て、ぐりが納得するまでブラッシングをしてあげるのは、飼い主であり、書籍編集などを手掛ける野辺真葵さんです。

ぐりは、野辺さんがベランダに出していた、おがくず入りの空箱に棲みついた元野良猫です。それまで動物とは縁がなかった野辺さんが、約1ヵ月間、毎日のように通って来ては、箱の中で眠る野良猫を飼うことに決めたのには理由があります。

「動物に関する知識はまるでなかったけど、猫の呼吸の仕方がおかしいと気づき、病院で診てもらった方がいいのかもしれないって。初めて抱き上げて、用意したキャリーバッグに入れた時も、抵抗するどころか、鳴きもしませんでした」

診断の結果は、呼吸器の病気である横隔膜ヘルニア。幸い軽症で手術の必要はなく、様子見となりましたが、医師からは「一刻も早くおうちに入れてあげて欲しい」とお願いされました。病院から家に戻り、ケージから出たぐりは、「外に出して」と鳴くこともなく、電源がついていたホットカーペットに嬉々として横たわり、そのまま野辺家の一員に。

おじいちゃん猫じゃなかったの?

病院に連れて行く時点で、ある程度、覚悟はしていたものの、まさか自分が動物を飼うことになるとは思ってもみなかったと野辺さん。野辺さんのことをよく知る人たちもこぞって驚いたと言います。

「友人からペットの写真を見せられてはコメントに困り、道端で猫や犬に足を止めては撫でる友人たちを遠巻きに見ているようなタイプだったので(笑)。でも、ぐりと暮らすようになってからは一変しました。ペットが亡くなって会社を休む人の気持も今ならよく分かります。だって、家族ですもんね」

ぐりに関して病院で判明したことがもう2つ。寝てばかりいるからさぞ年をとっているのだろうと思ったら、なんと推定1歳。しかも、亡くなった祖父に寝相が似ていることから、てっきり雄だと思っていたら女の子でした。ぐりぐりとおでこを押しつけて甘える様子から「ぐり」と名付けられた元野良猫は、今年、野辺家で5回目の春を迎えました。

猫を家族に迎えて

「ぐりが来てからは、一緒に暮らす父が家にいない時も、『いってきます』と『ただいま』を必ず言うようになりました。ぐりに対して家族という感情を抱けるようになったことで、他の動物にも興味を持ったり、保護活動にささやかながら募金をするようになったり、動物好きの友人たちの気持ちが痛いほどわかったり。まるで新しい扉を開けて、新しい世界に生きているような感じです」

血のつながりがなくても、種族が違っても、家族になれる。愛しくもせつなくもあり、心強くある一方で心配事も増える。家族の存在によって様々な感情に触れ、めまぐるしく過ぎていく日々は一日一日が宝物です。さて、次回は、普段は控えめな性格のぐりがこだわる「あること」によって、一変した野辺さんの生活のお話です。お楽しみに!

photo / 筒井聖子

編集ディレクター・野辺真葵

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