猫が教えてくれること「出会うべくして」/編集ディレクター・野辺真葵さんの場合vol.1

猫の猫らしい行動に、自分の生き方を重ねてハッとする瞬間があります。編集ディレクターの野辺真葵さんもその一人。あとで捨てようと思って、一旦ベランダに置いた空箱。その箱の中で気持ちよさそうに眠る猫を見つけた時は、運命の出会いとは思いもしなかったそうですが…。
 宇佐見明日香

長芋の箱の中で眠る猫

「ヤーン…」。子猫のようにか細く、控えめな声で鳴くのは「ぐり」(メス・推定6歳)。鳴き声と同じく性格も控えめで、気が優しいと話すのは、ぐりの飼い主であり、書籍編集などを手掛ける野辺真葵さんです。ぐりとの出会いは5年前。野辺さんがお父様と暮らす実家のベランダでのことでした。

「頂き物の長芋が入っていた空箱をベランダに出しておいたんです。数日後、カーテンを開けると、箱の中に謎のかたまりが!よく見ると、空箱に敷き詰められたおがくずにまみれて丸まって眠る猫でした。

面白い光景だったので記念写真は撮ったものの、近所の野良猫がたまたま通りかかって昼寝でもしているのだろう思っていたら、それから毎日来るようになって。朝、カーテンを開けるたびに、長芋の箱の中で、もうすでにくつろいでいる。

しかも、日に日に滞在時間が長くなって、1週間もすると日中ずっといるようになって。でも、私もですけど、猫の方も、まったくといっていいほど積極的に関わってこようとはせず。窓の外から家の中を見つめることも、鳴くこともなしに、ただただ寝ているだけでした(笑)」

出会いから3週間後の急接近

「小学1年生の時、子猫を拾って帰ったら、弟が喘息だから、うちで動物は飼えないと言われて以来、猫に限らず動物全般を気に掛けることも、愛でることもなく大人になったので、毎日猫が通って来ても、飼うという発想は湧いてきませんでした」

一向に縮まる気配のなかった距離感に変化があったのは、出会った日から3週間ほど経った頃。

「仲良くなれるかな?と思って、汚れてもいい古い学生ジャージを履いてベランダへ出て、猫が眠る箱の横にあぐらをかいて座ってみたんです。すると、何の迷いもなしに、私の足の間にやってきて丸くなったからビックリ。でも、触り方がよくわからないから、微動だにできず、しばらくそのまま一緒に日向ぼっこしました」

野辺さんと暮らすお父様もその頃から、「このままじゃ漫画家の大島弓子さんみたいになっちゃうね」などと言いながらも「猫の箱にタオルを敷いてあげた方がいいんじゃないか」、「煮干をあげてみたら?」と気にかけるようになり、小分けの猫エサを買ってきたりしはじめたと言います。

出会いからここまで約1ヵ月。窓越しから膝上へと距離を縮めて気づいたのは、猫の呼吸の不自然さでした。野辺さんはすぐに猫を病院へ連れて行くことにします。この猫がぐりと名付けられ、野辺家の一員になるまであともう少しです。

出会いによって救われたもの

野辺さんが人生で初めて飼うことになった猫・ぐりから教わったのは、「出会うべくして出会う」ということ。

「ぐりと出会う少し前に祖父を亡くし、同時に、今までしていた介護をする必要もなくなって。時間にも心にもぽっかり穴が開いたところへぐりが来てくれました。出会いのタイミングがズレて、介護の真っ最中にあったら、猫に気を止める余裕は無かったと思います。

それに、動物にはまったく詳しくなかったけど、ぐりの呼吸の異変に気付いて、病院に連れて行くことができ、大事に至らずに済んだのは、弟が小さい頃に喘息を患っていたから、知らず知らず人の呼吸を気にかけるクセがついていたからもしれなくて。必然的なタイミングで、必要な者同士が、出会うべくして出会えたのかなって」

出会いによって心を救われた野辺さんと、命を救われたぐり。身近な人との出会いを振り返り、そこにささやかな意味を見出す行為や時間は、人を優しくします。さて、次回は、ぐりが、野良猫から正式に飼い猫になった日のお話です。お楽しみに!

photo / 筒井聖子

編集ディレクター・野辺真葵

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