猫が教えてくれること「ご機嫌の威力」/版画家・猫野ぺすかさんの場合vol.1

猫の猫らしい行動に、自分の生き方を重ねてハッとする瞬間があります。版画家の猫野ぺすかさんもその一人。幼少の頃から、絶えず猫と一緒にいたぺすかさんにとって、猫から教わったことは山ほどもあると言います。その中から選りすぐりの教訓を教えてもらいました。
 宇佐見明日香

どこかに猫でも落ちていないかしら?

日だまりの庭でまどろむ「まだ」(オス・16歳)、生後8ヵ月の兄弟猫「ゆうゆう」と「しんしん」。3匹の飼い主は、木版や焼き絵などで絵本や挿絵を描かれている、猫野ぺすかさんです。

「まだ物心つかない頃から、猫の絶えない家でした」とぺすかさん。「猫野ぺすか」という作家ネームも、猫好きのそれで付けたそう。人生で10匹目、11匹目の飼い猫となる「ゆうゆう」と「しんしん」が、家にやって来たのは7ヵ月前のことです。

「『まだちゃん』が高齢になってきたことで、母が私のペットロスを先走り気味に心配して、『そろそろ子猫でも…』と言いだしたんです。日を置いて、またその話になった時、母がぼそっと『どこかに猫でも落ちてないかしらね?』と言うので、『今は昔と違って野良猫も少なくなったし、そんなに都合よく落ちてないよ』というやり取りをした20分後。

猫の保護活動をされている知人の作家さんがSNSで『子猫を拾った』とツイートされて!あまりにもタイムリーな話に、こんなことってあるだろうか…と思いながらも『その猫ちゃん、うちで引き取れそうです』と連絡しました。私と母も驚いたけれど、知人も『こんなに早く里親さんが決まったのは初めて!』と驚いていました(笑)」

兄弟猫それぞれの個性

まるで決まっていたことのように、ぺすかさんの家にやって来た兄弟猫の「ゆうゆう」と「しんしん」。一緒に暮らし始めてから7ヵ月あまりが経ちました。もふもふの長毛で生後8ヵ月にして6キロ近くある「ゆうゆう」は、食いしん坊で台所が大好き。食への探求心が止まりません。

「パクチー・セロリ・カルダモン…。人間でも好き嫌いが分かれるような食材やスパイスにまで果敢に挑戦しようとするので、台所にいる間は目が離せません。初めて庭に出した時も、バッタを食べてしまって(笑)」

白黒の短毛「しんしん」は好奇心旺盛で賢い子。

「ヒモでじゃらして遊んでいても、ヒモを持っている人間の手の方を見るような賢さがあります。初めて庭に出した時も、庭に生えている木を一本いっぽん嗅いで、噛んで、ツメを立てて点検していました」

ご機嫌ちゃんの威力

猫とともに人生を歩んできたぺすかさんにとって、猫から学んだことは100個挙げても足りないくらいと言います。その中から、今回の取材で教えていただくのはたったの3つ。選りすぐりの1つ目は「ご機嫌の威力」です。

「ご機嫌の威力は、特に『しんしん』から教わりました。人が大好きで、家に来たその日から、ただ近くにいるだけでゴロゴロと喉を鳴らし、だいたいいつもご機嫌ちゃんな『しんしん』。

私がちょっとイライラしたり、落ち込んでいる時も、『しんしん』がゴロゴロ言いながらトコトコ近寄って来るだけで、つい笑ってしまいます。『しんしん』の機嫌の良さに、気持ちがほぐれ、温かくなり、優しい気持ちになれます」

「先日、『しんしん』が庭で一番背の高い木に駆け上り、下りられなくなってしまった時も、助けようとはしごに上って手を伸ばしただけで、ゴロゴロ言い出して(笑)。捕まえて胸に抱くと、怖さでまだ震えながらもずっとゴロゴロ言っていて。怖さで暴れたりしたら、どちらも降りるのに苦労したと思うのですが、こんな時でさえも、ご機嫌でいてくれる『しんしん』のおかげで助かりました。

ご機嫌とは正反対の不機嫌な態度は、周囲を嫌な気持ち、辛い気持ちにさせるばかりか、そういう態度をとることで周囲をコントロールしてしまうようなところがありますよね。逆に、その人の内側から自然に生まれる楽しさや喜びは、周囲にまでパワーを与えるんです」

楽しい、嬉しいという気持ちの強い「しんしん」でさえ、怒ったり拗ねたりすることは当然あり、そこもまた可愛いと話してくれたぺすかさん。いつもご機嫌というわけにはいかないかもしれませんが、ご機嫌でいられるように努めることは、周囲にいい影響を与えると同時に、自分自身を労わることにもつながりそうです。

さて、次回は、最愛の猫を亡くしたぺすかさんが、悲しみの底で体験した不思議なお話です。お楽しみに!

Photo/筒井聖子

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