ヨーロッパを代表する磁器の一つ「セーヴル」に日本の影響を発見『セーヴル、創造の300年』
ヨーロッパ磁器の最高峰の一つに君臨し、優雅で気品に満ちた形や絵柄の美しい作品を制作している「セーヴル」。その魅力を楽しめる展覧会がサントリー美術館で1月28日(日)まで開催されています。日本文化の影響を受けた作品もあるので、磁器の中に隠れた日本らしさを探しながら鑑賞してみてはいかがですか。
- 2018.1.25
- アート・カルチャー
優雅で洗練されたセーヴルは、変化に富みバリエーション豊か
時代によって特徴が変化したセーヴルの磁器。18世紀は、愛らしい子供たちや優雅な庭園を主題とした華やかな作品が多くありましたが、19世紀には博物学の知見を装飾に加え、人々の知的好奇心を誘う作品も出てくるなど、常に変化を続けています。ちなみに、セーヴルを象徴する濃く麗しいブルーの色がありますが、これは18世紀にリアルな絵画表現を求めて開発された無数の色絵具のうちのひとつ。これらの絵の具は、食器だけでなく壺なども鮮やかに彩色しています。
また、鮮やかな磁器ばかりかと思えば、大理石を思わせる無釉白磁のビスキュイ彫刻もあるなど、作品のバリエーションが豊かなことも特徴の一つ。現代では、草間彌生さんとコラボし、写真左の「ゴールデン・スピリット」という謎めいた彫像を作成するなど、新たな挑戦を続けています。
写真右は、本展覧会『セーヴル、創造の300年』のメインビジュアルにも使われている「乳房のボウル」。今回の目玉の一つです。ルイ16世が、マリーアントワネットのため、酪農場で飲むミルクボウルとして作らせたものです。山羊をかたどった3本の脚に、乳房のような形のカップが乗せられており、カップと脚は分離します。カップの柔らかな曲線と、バランスのよい乳房の形は、王妃の胸を石膏で型をとったという逸話もありますが、実はこれは俗説で、古代ギリシアの杯から着想を得たものだと言われています。
(写真左)《ゴールデン・スピリット》草間彌生 2005年 セーヴル陶磁都市 photo:コロコロ
(写真右)マリー・アントワネットのための乳房のボウル(ランブイエの酪農場のためのセルヴィスより)
ルイ・シモン・ボワゾ、ジャン=ジャック・ラグルネ 1787-88年 セーヴル陶磁都市 無断転載禁止
photo:© RMN-Grand Palais (Sèvres, Cité de la céramique) / Martine Beck-Coppola / distributed by AMF
また、鮮やかな磁器ばかりかと思えば、大理石を思わせる無釉白磁のビスキュイ彫刻もあるなど、作品のバリエーションが豊かなことも特徴の一つ。現代では、草間彌生さんとコラボし、写真左の「ゴールデン・スピリット」という謎めいた彫像を作成するなど、新たな挑戦を続けています。
写真右は、本展覧会『セーヴル、創造の300年』のメインビジュアルにも使われている「乳房のボウル」。今回の目玉の一つです。ルイ16世が、マリーアントワネットのため、酪農場で飲むミルクボウルとして作らせたものです。山羊をかたどった3本の脚に、乳房のような形のカップが乗せられており、カップと脚は分離します。カップの柔らかな曲線と、バランスのよい乳房の形は、王妃の胸を石膏で型をとったという逸話もありますが、実はこれは俗説で、古代ギリシアの杯から着想を得たものだと言われています。
(写真左)《ゴールデン・スピリット》草間彌生 2005年 セーヴル陶磁都市 photo:コロコロ
(写真右)マリー・アントワネットのための乳房のボウル(ランブイエの酪農場のためのセルヴィスより)
ルイ・シモン・ボワゾ、ジャン=ジャック・ラグルネ 1787-88年 セーヴル陶磁都市 無断転載禁止
photo:© RMN-Grand Palais (Sèvres, Cité de la céramique) / Martine Beck-Coppola / distributed by AMF
壺の底に隠れるように潜む昆虫、日本の影響を受けていた?
この壺の底部の膨らんだ部分に何かが隠れています。よく見ると、バッタのような昆虫が潜んでいます。
ところが西洋において、昆虫が作品のモチーフとして描かれるということはありませんでした。西洋では、キリスト教の教えによって、神が一番、次に人間、そして動物という序列があります。昆虫はさらに下位にとらえられていました。作品に昆虫を描いたのは、画期的なことだったと考えられます。
「ジャポニスム」という日本趣味のブームがおきたことで、これまで作品として扱うことのなかった動物や昆虫がモチーフとして登場するようになりました。
日本の花鳥風月画には、昆虫がよく登場します。それらは、よく見ないとわからないような大きさだったり、葉の裏に隠れるように描かれることがあります。バッタを潜ませるように描いたのは、日本美術の手法も影響しているのではと感じさせられました。
(写真左)壺「ル・ブルジェB」 (写真右)壺「ル・ブルジェB」部分
器形:クロード・ニコラ・アレクサンドル・サンディエ(1843-1916)
装飾:H.ユルリク/ガブリエル・ロー(1896-1915に活動)に基づく 1901年 セーヴル陶磁都市
ところが西洋において、昆虫が作品のモチーフとして描かれるということはありませんでした。西洋では、キリスト教の教えによって、神が一番、次に人間、そして動物という序列があります。昆虫はさらに下位にとらえられていました。作品に昆虫を描いたのは、画期的なことだったと考えられます。
「ジャポニスム」という日本趣味のブームがおきたことで、これまで作品として扱うことのなかった動物や昆虫がモチーフとして登場するようになりました。
日本の花鳥風月画には、昆虫がよく登場します。それらは、よく見ないとわからないような大きさだったり、葉の裏に隠れるように描かれることがあります。バッタを潜ませるように描いたのは、日本美術の手法も影響しているのではと感じさせられました。
(写真左)壺「ル・ブルジェB」 (写真右)壺「ル・ブルジェB」部分
器形:クロード・ニコラ・アレクサンドル・サンディエ(1843-1916)
装飾:H.ユルリク/ガブリエル・ロー(1896-1915に活動)に基づく 1901年 セーヴル陶磁都市
小さき動物を愛で、動物と戯れる姿は、西洋にとっては斬新?
こちらの作品のタイトルは「象とねずみ」なのですが、なかなかねずみの姿がみつかりません。どこにねずみはいるのでしょうか?
よく見ると象の足元に猫がいて、猫の手の先に小さなねずみが捕らえられていることに気づきます。じっくり探さないと気づけないこんなに小さなねずみなのに、タイトルでは“ねずみ”にスポットを当てています。
この作品は、外国人に門戸を開くことがなかったセーヴルが、初めて「協力芸術家」として起用した日本人、沼田一雅によるものです。日本人の小さき動物も愛おしむ心が象徴されたようなこの作品は西洋の人々に大きな驚きを与えたのではないかと思いました。
(写真)象とねずみ 沼田一雅(1873-1954)1906年 セーヴル陶磁都市
よく見ると象の足元に猫がいて、猫の手の先に小さなねずみが捕らえられていることに気づきます。じっくり探さないと気づけないこんなに小さなねずみなのに、タイトルでは“ねずみ”にスポットを当てています。
この作品は、外国人に門戸を開くことがなかったセーヴルが、初めて「協力芸術家」として起用した日本人、沼田一雅によるものです。日本人の小さき動物も愛おしむ心が象徴されたようなこの作品は西洋の人々に大きな驚きを与えたのではないかと思いました。
(写真)象とねずみ 沼田一雅(1873-1954)1906年 セーヴル陶磁都市
写真をもっとよく見ると、象に乗った日本人と思われる女性の回りに、猿、鳥、犬が周りを囲んでいます。日本人にとっては人が動物に囲まれているほのぼのとた印象をうけますが、動物は人よりも下という考えを持っていた西洋人がこの作品を見たら、さぞや驚いたのではないでしょうか?
動物たちと同じ目線で捉え、友達のように戯れている彫刻。日本人が自然とともに生きてきた世界観に西洋人はカルチャーショックを受けたかもしれません。
(写真)象とねずみ(部分) 沼田一雅(1873-1954)1906年 セーヴル陶磁都市
動物たちと同じ目線で捉え、友達のように戯れている彫刻。日本人が自然とともに生きてきた世界観に西洋人はカルチャーショックを受けたかもしれません。
(写真)象とねずみ(部分) 沼田一雅(1873-1954)1906年 セーヴル陶磁都市
余白があり、非対称で描かれた花のお皿、構図のヒントは日本画?
お皿にお花が描かれているこの写真。日本人にとっては違和感はあまりないですが、西洋の作品には珍しいタイプの絵柄です。なぜなら、西洋で花を描く時は、キリスト教の影響から、学術的なボタニカルアートか、花瓶に生けた切り花しか描かないからです。しかし、この作品では“人の魂は滅びない”ことの対比として、切った花が描かれています。切られた花は朽ちることから“死んだ自然”を表しました。
また西洋の絵画表現は、空白を残さず全て埋め尽くすのが基本とされていました。一方、日本では扇や掛け軸など、一面を塗りつぶすことはありません。そんな日本美術の描き方を取り入れたと思われるこのお皿の余白の取り方。そして西洋では基本とされるシンメトリー(左右対称)で描くことを破った構図のこの作品は、西洋では斬新に映ったのではないでしょうか?
さらに私は、花に施されている金彩を見て、平安時代の絵巻物に見られる金雲の表現を連想しました。雲によって、手前と奥の遠近効果をもたらすのも、日本独特の表現です。こうしたさまざまな日本絵画の技法が用いられ、さらに西洋独自の解釈を加えて発展させたベースとなっていることに、誇らしい気持ちになりました。
(写真左)皿(「輪花形のセルヴィス」より) (写真右)皿(「輪花形のセルヴィス」より)部分
装飾:ジュール=オーギュスト・アベ―ル=ディス(1850-1927年以降)1888年 セーヴル陶磁都市
また西洋の絵画表現は、空白を残さず全て埋め尽くすのが基本とされていました。一方、日本では扇や掛け軸など、一面を塗りつぶすことはありません。そんな日本美術の描き方を取り入れたと思われるこのお皿の余白の取り方。そして西洋では基本とされるシンメトリー(左右対称)で描くことを破った構図のこの作品は、西洋では斬新に映ったのではないでしょうか?
さらに私は、花に施されている金彩を見て、平安時代の絵巻物に見られる金雲の表現を連想しました。雲によって、手前と奥の遠近効果をもたらすのも、日本独特の表現です。こうしたさまざまな日本絵画の技法が用いられ、さらに西洋独自の解釈を加えて発展させたベースとなっていることに、誇らしい気持ちになりました。
(写真左)皿(「輪花形のセルヴィス」より) (写真右)皿(「輪花形のセルヴィス」より)部分
装飾:ジュール=オーギュスト・アベ―ル=ディス(1850-1927年以降)1888年 セーヴル陶磁都市
日本人に流れる「血」と、影響を与えた「知」を感じる作品の数々
セーヴルの300年の歴史を追ってみると、日本人が与えてきた影響を伺うことができます。磁器に日本の“血と知”が流れているようで、うれしく感じられました。日本美術のことがよくわからなくても、見ていると“日本人の血”に語りかけてくる作品がいくつもあります。ぜひ展覧会に足を運んで、自分の目で自分の日本を探して見つけてみてはいかがでしょうか?
(写真左)「オベールの壺 No.18」 器形:フェリックス・オベール(1866-1940) 装飾:アンヌ=マリー・フォンテ-ヌ(1920-1938年に活動)セーヴル陶磁都市
(写真右)「ラパンの壺 No.12」 器形:アンリ・ラパン(1873-1939) 装飾:ジャン・ボーモン(1895-?)1925年 セーヴル陶磁都市
(写真左)「オベールの壺 No.18」 器形:フェリックス・オベール(1866-1940) 装飾:アンヌ=マリー・フォンテ-ヌ(1920-1938年に活動)セーヴル陶磁都市
(写真右)「ラパンの壺 No.12」 器形:アンリ・ラパン(1873-1939) 装飾:ジャン・ボーモン(1895-?)1925年 セーヴル陶磁都市
『セーヴル、創造の300年』
会場:サントリー美術館
住所:東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階
TEL:03-3479-8600
営業時間:10:00〜18:00(ただし金・土は20:00まで開館)
※いずれも最終入館は閉館30分前まで
※開館情報は、今後の状況により変更する場合があります。
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