猫が教えてくれること「癒えるのを信じて待つ」/uzuraさんちのタビくんの場合vol.1

呼ばれても振り返らない自由がある。猫の猫らしいやり方に、自分の生き方を重ねてハッとする瞬間があります。夫婦でオーダーメイドの革靴店『uzura』を営む高橋宏美さんも飼い猫のタビくん(オス・10歳)から教わることがあると言います。3回連載の1回目、今回タビくんが教えてくれたのは体と心の癒し方でした。
 宇佐見明日香

物置下に産み落とされた小さな命

夫婦でオーダーメイドシューズ店『uzura』を営む高橋宏美さん。宏美さんの踏むカタカタというミシンの音やご主人の打つトントンという木づちの音を子守歌に眠るのは、飼い猫のタビくん(オス・10歳)です。

「タビがうちにやって来たのは10年前。当時住んでいた家の物置下のスペースに、近所で顔の知れた野良ちゃんが子猫を4匹産んだんです。保護した時はまだ目も開いていないくらいの生まれたて。友人づたいに里親を探して1匹、2匹ともらわれていき、残ったのがタビでした。

自分のところで飼うつもりは全然なかったんですけどね。でも、里親を引き受けてくれた友人が『この子(タビ)は、グレーの尻尾に白い輪っかと珍しい柄。色もおしゃれだしデザイン性が高いから、uzura(高橋夫妻)が飼ったらいいよ』って。兄弟がもらわれていって寂しいのか、その頃には私たちに甘えるようにもなっていて、そうなるともうだめですよね。白足袋を履いているように見えたのでタビと名付けて、猫が飼える家に引っ越しました」

気の優しいおっとりさん

「哺乳瓶の口も大きくて入らず、スポイトでミルクを飲むほど小さな頃から私たちに育てられていますから、タビは人が大好きです。月4回、工房で靴づくり教室をやっているのですが、基本、誰が来ても物怖じしません。性格はおっとりしていて、クラスにいたら窓際の席でボーッと外を見ているような男の子かも。

タビの好きな居場所はコロコロ変わりますが、居間では旦那の胡坐の中。靴づくりの工房では私の膝の上がお気に入りのようです。背の低い私は、タビが膝に座りやすいように、靴づくりに使う糊の空き缶に足を乗せて作業しています。そんな努力を知ってか知らずか、タビは私と旦那のどちらかに愛情が偏らないように、平等に接してくれている感じがするんですよね。同じ空間に二人いると、私の足にちょっと触れてから旦那のところに行くとかね。意図的なんです。ありがとうって思います」

タビが教えてくれたのは「癒えるのを信じて待つ」こと

「まだこの家に引っ越してきたばかりの頃。夜、外から猫同士が喧嘩する声が聞こえてきて。旦那と『ここら辺の野良ちゃんたちは、威勢がいいね』なんて話していたんです。次の瞬間『そういえばタビは?』となって、家中探したんですけどどこにもいない。脱走してました。外を探し回ってやっとみつけたタビは、野良猫の洗礼を受けて満身創痍ボロボロでした。家に連れて帰っても興奮しているのかサーッと物陰に隠れたきり出てこない。大きな傷もなかったので、ひとまずは彼(タビ)を信じて任せてみようと、病院に連れて行くのをやめてそっとしておきました」

「それから3日間くらいですかね。普段は絶対に入らない押入れの奥の方でただただじっとしているんです。私たちが眠ってからそっと出てくるのか、最低限の水と餌を口にして、また押入れの奥でじーっと。3日も過ぎると姿を見せる時間が少しずつ長くなっていって、徐々に本来の調子を取り戻していきました。かっこよかったですね。弱っているところを見せず、じたばたしないでただ癒えるのを信じて待つ。風邪をひいたりすると、このときのタビを思い出すんです。私もじたばたしないで信じて眠ろうって」

人は体の調子を崩したり、心が弱ってしまった時、日常に追いついていかない体や心に、つい焦ったり苛立ったり落ち込んだりしてしまいがち。「じたばたせず癒えるのを信じて待つ」というタビくんの潔さは、日常を取り戻す一番の近道を教えてくれました。

さて次回のvol.2は、宏美さんの対人関係をラクにしたタビくんの教えです。お楽しみに。

photo / 筒井聖子

手作り靴屋uzura

http://www.uzura-village.com/

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